2010年8月2日月曜日

ソウル見聞録 (5)(2003年3月30日執筆)

プルコギバーガー

8時に携帯のアラームが鳴り出した。私たちが起き出したのは50分くらいで、部屋を出たときには9時半になっていた。

朝ご飯は、江辺駅近くのロッテリアで食べることにした。ガイドブックか何かに、「韓国に来たからにはファストフードなどではなく、地元の料理を食べよう」といった趣旨のことが書いてあった。確かにそれは正論だ。なぜならファストフードの味やサービスは国によってほとんど変わらないからである。

ただ、そうは言っても、もう入店してしまった。せめて何らかの韓国の独自性を感じさせるものを頼んでみたい。メニューを見ると、プルコギバーガーというのが目に入る。(「プルコギバーガー」と分かったのは、ハングルの脇にアルファベットで書いてあったからである。)

3人とも、そのプルコギバーガーのセットを頼むことにした。これには、3人が別々のものを頼むと、Fにまとめて注文をさせづらいから、という隠された理由がある。

例によって、Yと私はFが注文するのを脇で興味深く観察させてもらう。Fの朝鮮語の使いっぷりはかなり怪しいが、指差しと店員(女性、推定22)の察しによって何とか通じている。


(プルコギバーガーセット)

店員はフレンチフライ(米国の一部では「フリーダムフライ」)を付けずに出そうとしたが、直前で気付き付け足した。「あ、忘れた、ごめんなさい」という感じで何か言ったのが朝鮮語なのを考えると、我々を韓国人と思ってくれているようだ。

飲み物は選べない仕組みで、有無を言わせずコーラが出てきた。レジ近くにこの炭酸飲料が「入れ置き」してある。

プルコギバーガーは、食べてみると、特に驚く要素はない。私はロッテリアのハンバーガーはほとんど食べたことがないので、それとどう違うかも判断できない。まあ普通のハンバーガーかな。マヨネーズが入っている。フライにはケチャップが付いてきた。

南大門市場

今日は、かねてから(2日前から)行ってみたかった南大門市場に行く。昨日は市場の定休日だった。江辺駅で例によって600ウォンの切符を買い、電車に乗る。東大門運動場(トンデモンウンドンジョン)駅と会賢(フェフョン)駅を経由して、南大門市場駅に到着。

駅を出て1, 2分も歩くと市場への入口がある。中は市場らしく活気に満ちている。昨日の明洞よりも店が多い。また明洞ではほとんどなかった呼び込みの声がそこら中で響いている。

と、その時、ふいに「おもちですよ―」という声が聞こえた。日本語である。驚いて振り向くと、屋台のお兄さんだ。我々を見て彼は、「日本のお客さんですよね?」と流暢な日本語で話し掛けてきた。ここまで来て買わないのも趣に欠けるので、Fがその「もち」、500ウォンを購入。少しちぎって食わせてもらった。薄く伸ばして焼いたもち風生地に甘いあんが入っている。


(500ウォン)

日本語での売り込みはそれで終らなかった。道路を歩いていると、両脇の至る所から私達の財布を狙った「円語」が聞こえてくる。逆に、朝鮮語で売り込んでくる人がいないくらいだ。予期していなかった事態で、呆気に取られる。

洋服屋の前を通ると、1人の男性(推定27)が歩み寄ってきた。我々の目をじっくりと見て彼はこう言った。「マボロシの時計ありますよ!」。




(「円語」の飛び交う南大門市場。三枚目は2010年8月2日追加画像)

韓国のりの店を通ると、女性店員(推定24)が、「3つで千円ですよー、3つで千円ですよー」としつこく迫ってくる。韓国のりは欲しいのだが、売り込まれると足早に通り過ぎたくなる。しかも通貨単位が「円」と来た。

眼鏡屋(今韓国ではメガネが流行っているという)の店員は「めがね1000円からあります」「一番安い」といった重要フレーズを叫び続けている。

一番印象的だったのが、「お客さん、カンペキなニセモノありますよ!」である。何の「ニセモノ」か分からないのが肝要である。

Tシャツ屋

Tシャツ屋で、W杯の時に南朝鮮のサポーターズが着ていた赤Tシャツを見つけた。他にもハングル文字が印刷された、ベタな韓国土産として最適なTシャツもある。

売り場で後者を手に取っていると、どこからともなく店員(男性、推定36)が出てきて「サイズは?」と聞いてきた。当たり前のようにジャパニイズで会話していることに困惑しつつ、私は「Mがいいんですけど」と答えた。

そこまではよかったんだが、このおっさん、かなりの曲者だ。実際に買うかの確認すら取らず、少しでも買いそうな気を見せた商品を素早い動作で袋に詰めるので閉口する。まあ欲しくなかった商品を買わされた訳ではないが(買ったのは5000ウォンの赤T×2と10000ウォンのハングルT×1)。さらに、FとYにも「お前らはどれを買うんだ」という感じで「あなたは?」と聞く。買わないと言った場合はもちろん、買っても1枚だと明らかに不満気な様子を見せる。強引に押し付けるような、傲慢でうっとうしい売り方をしてくるので頭に来る。


 
(広大な市場)

(買ってみると単なるココアだった)

(布団店の並ぶ地区。近くには魚地区が)

この市場はなかなか広大で、よく観察してみると、地区によって売られている物が固まっている。例えば、服やカバンの店が密集する場所、視界に布団ばかりが入ってくる地区、魚市場のような区域などがある。


(2010年8月2日追加画像)

飲食店も同様に固まっている。通路の両脇に各店の店員が立っており、歌舞伎町を思わせるような客引きをしてくる。ここでも日本語だ。「うちで食べてってー」というのは分かるが、それに紛れて1人のおばさんが「どこでも一緒!」と言って自分の店を売り込んで(?)くる。さらに、腕までつかんでくる。

冷麺

ちょうど昼飯時なので、そのうちの一つで食べていくことにした。ちょっとでも立ち止まると店に入らざるを得ないような怒涛の客引きなので、どの店にしようかと選んでいる余地はない。勢いに任せて、冷麺を出していそうな一つの店に入る。

席に座りメニューを見ると、NHKのスタンダード何とか(30だか40だか45だか)という語学番組で紹介されたという趣旨のことが書いてある。

Yは「交ぜ冷麺(『混ぜ』が正しい気がするが)」(4000ウォン)、Fと私は「冷麺」(4000ウォン)を注文。さらに3人で1個「もちやき(『やきもち』の方が正しい気もするが)」(3000ウォン)を頼んだ。

この店の付け合わせにはキムチ、もやしの和え物といった定番に加え、今までの店では出てこなかったたくあんが出てきた。

料理が届いた。冷麺は小学校の給食の食器を思わせる銀色の器に入っている。スープは透き通っており、味は薄い。そばのような色合いの麺は硬く、なかなか噛み切れない。意表を突かれる微妙な一品だ。私は冷麺を食べるのは初めてなので、こんなものだと言われればそれまでだ。だがYは、日本で食べた冷麺の方がうまいと言っている(評価:5)。

「もちやき」は、真っ赤なタレに細長いもちが浸かっている料理。後から口の中を嫌な辛さが襲ってくる。いくつも食べる気にはならない(評価:4)。


(もちやきも冷麺もいまひとつ)

(店の前で作っている)

Yの「交ぜ冷麺」(韓国の冷やし中華、といった感じの料理)も相当に辛いらしい。まあ辛いのはともかく、これが本場の味なのか? どうなんだ、国営放送のスタンダード何とかのスタッフたちよ。

ソウル駅

次は南大門市場駅から数駅のところにあるソウル駅に行ってみることにした。YとFが鉄道好きなため、この駅を見ておきたいらしい。

行ってみると大きな駅で、中の感じは電車の駅というよりは空港に近い。ロッテリア、ダンキンドーナツ、マクドナルドといったファストフード店が軒を連ねている。「外資系に食い荒らされてるなあ」とY。

円形のベンチで多くの人が寝ている。中には重なり合って眠っている人もいる。

奥に行くと、食い物屋だけでなくCD屋まである。Yがお土産にと、ボアのCDを手に取る。値段が昨日私が明洞で買った同じアルバムよりも高い。14000ウォン。昨日、私が買った値段は11500ウォンだった。


(ソウル駅)

サイズが違う

何気なく、さっき買ったハングル文字が印刷されたTシャツを袋から出して見てみると、あることに気付いた。何と、「M」と言ったのにサイズが「XL」なのだ。確認しておけばよかったと思うと同時に、あの店員に対する呆れと怒りが沸いてくる。

FとYに頼んで、一旦市場に戻らせてもらうことにした。次は劇場に「ナンタ」を観に行くのだが、それまでは時間がある。

先ほどの店に戻る。表にいてもなかなか店員が出現しない。しびれを切らして中の方に入るとそこにはいた。シャツを掲げ、「これさっきMって言ったのにXLが来たんだよ」と言ったが、細かいところまでは理解出来なかったらしく、サイズを交換して欲しい客が来た、という程度に受け止められた。

しかも、「Mがない」と言い出した。となると、私の言ったサイズがないことを知った上で、確信犯的に袋にXLサイズを詰め込んだ、と結論付けざるを得ない。

そしておじさんは、Lで我慢してもらいたいらしく、「LがMです」という、訳の分からない命題を口走った。納得出来ない私を見てもう1人の店員がこう言った。

「あなたはXLです」。――結局、Lに代えてもらい我慢することにした。ちなみに、後から赤Tシャツの方を着てみたが、私はMサイズで問題なかった。

駅に戻る途中の店で、YがYシャツを購入した。

ナンタ劇場へ

東大門運動場駅を経由して、西大門(ソデムン)駅(この駅は改札が自動だった)へ。ここから劇場に歩き、ナンタという劇を鑑賞するのだ。

やや迷ったが、何とか劇場に到着。入ってすぐの所で大学芋風の食べ物を売っている。チケット売り場の他に土産店、コンビニ、さらに「Quickly」という、こ洒落た雰囲気の、飲み物の店もある。

日本から電話でチケットを取っていたYが切符を受け取る間に、私は先ほどの大学芋を購入。店の人は、「さつまいも」「いちご」といった重要単語だけは日本語で言って来た。

Yから切符を受け取る。我々は「Quickly」で飲み物を買い、いよいよ席へと移ることにした。(続く)

(2003年3月30日、午後9時57分)