2013年6月16日日曜日

トレード・オフ。

最近、ジャズにはまり込んでいて、CDを漁っている。困るのが、昔の名作は何度も再発売されているからAmazonで検索すると同じアルバムが何件も出てくる。バージョンによってリマスターされて音質がよくなっていることがよくあるのだが、Amazonのページではレビューが統合されているし判別がつきづらいのだ。

だから、最近のリマスター盤を買うのであれば、実店舗で商品を確認して買うのがよいと気付いた。リマスター盤の場合、帯に書いてあるから。

そこで気になった。リマスターとは、どういうことなんだろうか? 音質がよくなるとはどういうことだろうか? 少し気になって検索してみると、こんな記事を見つけた。

マスタリング、リマスタリングのお話/Jazzを聴こうぜBLOG版
http://blog.goo.ne.jp/taromiles/e/f9d2517f69d5654cf5c77b98eee1b228

自分はジャズに関しては新参なんだけど、この記事に書いてあることは結構、腑に落ちた。というのも、音を作りこむことと、生々しさや即興性とのトレード・オフというのは、ヒップホップのリスナーとして感じていることだったからだ。

ヒップホップの場合、きれいなトラックで流麗に歌い上げたラップよりも、雑音入りのラジオ音源でちょっと詰まっているくらいのフリースタイルが臨場感があってかえってよかったりする。少なくとも、私はそっちの方が好きだ。もちろん、フリースタイルがすべてではなくて、作品には作品のよさがあるのは言うまでもない。

ただ、ヒップホップを「フリースタイル」と「作品」の二項対立で見たときに、あまりにも「作品」に傾いてしまうと、個人的にはあまり楽しくないしヒップホップじゃないと感じてしまう。あらかじめ書かれた歌詞であっても、聴いていてどこかしら「次、何て言うんだ? どういう韻を踏むんだ?」というわくわくを感じさせてもらいたい。

私がKanye Westに付いて行けなくなったのは、そこだ。自分の中で至高なのは、一枚目アルバムの"College Dropout"と、"Freshmen Adjustment 1, 2"という海賊版デモ曲集(今調べたら、3も出てるのか)。この三枚は、大好きで、まさにヒップホップだと思っている。その次に好きなのが二枚目の"Late Registration"だけど、この時点で、自分が求めるヒップホップとはちょっと違うかなと思っていた。三枚目は耳が受け付けなくて、それ以降、彼のアルバムを追わなくなった。あまりにも、きれいな音楽になりすぎた。だからKanye Westに関しては、上述の四枚しかちゃんと聴いていない。



もちろん、Kanye Westの試みは、おそらくBlack musicとしては非常に高度なんだろうし、単に私が彼の進化に追い付けなかっただけだと思う。当時の私は、ヒップホップという枠組みへのこだわりが強くて、そこからはみ出る音を受け付けなかった。その時に比べたら他の音楽も聴き込んでいるので、今聴いてみたらいい音楽だと思えるのかもしれない。

基本的には、音質はよいに越したことはない。特に昔のアルバムは、リマスターによって現代の聴き手に手に取りやすくなるのであれば、どんどんするべきだと思う。たとえばキングギドラの「空からの力」なんかはリマスター再発売してほしいと思っている。そうやって古典を世の中に残していくのは大切。傑作とされているPublic Enemyの初期のアルバムは、音が悪すぎて、聴く気が失せたのを覚えている。



ただ、ヒップホップの場合、雑味を削ぎ落として、くっきりした、きれいで、計算された音楽作品を作り込もうとすればするほど、何かが失われていくのもたしか。で、その「何か」は、ヒップホップをヒップホップたらしめる重要な感覚なんだろうと思う。その原点がフリースタイルであったり、ラジカセから流れる音だったり、あとはレコードの音だったりするんだろうね。

Lootpackの"Lost Tapes"は2004年のリリースだけど、「レコード感」がすごく出ていると感じる。音が少しざらざらしていて、くっきりはっきりというよりは、少しこもっている。あえてそういう感じの音を作っているんだろうと思う。



で、その作り込んだり決められた通りにきれいにやるのとは対極な部分、たとえばフリースタイルとか即興とか、ヒップホップに求めていた部分がジャズにもある(むしろジャズの方が強い)というのが、今こうやってジャズに強く引き付けられている一つの大きな理由なんだろうと思う。