シゲタ・トラベルに着くと、夜10時台だが普通にラジェンダさんがいるのでほっとする。
俺「朝申し込んだチケットを受け取りに来た」
ラジェンダさん「まあ座れや」
机の引き出しから私向けの切符を探し当てたラジェンダさんによると、電車の発車時刻は明朝7:20。ああ、早い便だったか。朝9時から10時までコンノート・プレイスで待つと約束してくれたインド人ご家族に申し訳ないが、彼らに会わないままアムリトサルに向かうことになる。
でも本音では、彼らに会わなくていい理由ができて少し安心している。昨晩あれだけお世話になっておきながら何を言い出すんだ？ と思うよね。でも、どんなどんでん返しが待っているか分からないじゃないか。最初すごく優しくしてくれて、後から手のひらを返して金を請求してくるとか、危ない目に遭わせてくるという体験談は「地球の歩き方」を読んでたっぷり刷り込まれているもので・・・。
無事電車のチケットを受け取り、ホテルに戻る（シゲタ・トラベルのあるホテルから歩いて数分のところ）。
ラジェンダさんに聞いたところ、6時半くらいにホテルを出るのがいいだろうとのこと。ホテル番に「6時にウェイク・アップ・コール（目覚まし電話）してくれよ」というと、快く了承してくれた。
（2/11日目、終了。）
三日目（2月7日）
自分でかけておいた目覚ましで5時半に起きる。
身支度をあらかた済ませると6時になったが、当然のごとくウェイク・アップ・コールはかかってこない。一応確認したが、電話のプラグはちゃんとコンセントに入っている。予想していたことだ。別に怒る気にもならない。まあそうだよなって感じ。インド人の"OK"とか"No problem"を額面通りに受け取って損しても悪いのは自分だぜ。インドに限らないけどね。
でかいリュックをよっこらせと背負い（実際によっこらせえとは言わないけど、よしくらいは言ってるかも）チェック・アウトのためロビーへ。
すると、6時に俺の部屋にウェイク・アップ・コールをするはずの番人は、毛布にくるまって床で寝ている。何度か"Excuse me" "Good morning"を繰り返すとようやくノロノロ起き出して電気を付ける。
俺「起こしちゃってごめんね」
ホテル番「ノー・プロブレム」
俺「（それより前に俺に電話かける約束しといて寝てる方がプロブレムだけどな）」
料金を聞くと、700ルピー（約1400円）。何か安いな。2泊したから一泊350ルピー（約700円）か。それはともかく、初日の空港からホテルまでの送迎代を請求し忘れてるな。たしかホテルまでの送迎＋一泊で1000ルピーとかじゃなかったっけ。
おとなしく700ルピーを支払い、ありがとうと言って外へ。その前にさっきまで寝ててテンション低めのホテル番にモーニング娘。の誰が一番可愛いと思うか聞いたら、「二人のベイビーがいたらグッドだね」と言って道重さゆみさんと久住小春さんを指さした。寝起きでこの発言ができるインド人はあなどれない。
まだ薄暗く人気の少ないメイン・バザールに出て一分も歩かないうちに、リクシャに声をかけられた。これがインドのいいところで、価格交渉や変なところに連れて行かれたりという面倒はあるものの、移動手段に困ることは滅多にない。重たい荷物をしょって駅まで歩く気などさらさらないのでちょうどよかった。
俺「ニュー・デリー駅までいくらだ？」
リクシャ運転手「30ルピー」
30ルピーでも悪くはないが、25ルピーに値切る。まだ騒がしくないメイン・バザールの空気をリクシャで味わうのは心地がよい。
駅に着くと、昼間ほどではないとは言え人がごった返していてちょっと気が滅入る。
男「タクシーに乗らないか？」
俺「いやいや、駅に行くんだよ」
男「（あ、駅が目的地だったのかと苦笑）これからどうするんだ？」
俺「電車に乗るんだ」
男「チケットを見せてみろ。俺が案内するからこっちに来い」
駅の中へ。
男「チケットにサインがないな。駅の2階でサインをもらわないと乗れないぞ」
階段を上がると、そいつのタクシー運転手仲間らしい坊主の男がちょうど上から降りてきて「どうした？」と始まった。俺のチケットを持って「こっちだ」と示してくる。
相手の数も増え不安になってくるが、彼らを信じることにする。
サインをもらう場所は、朝早いためか、門が閉まっている。
だけどその前に制服を着た駅関係者みたいな人がいて、チケットにサインをしている。「やつにサインをもらうんだ」と言われた通り、サインをしてもらった。
階段を降りて、乗るホームまで教えてもらって、「ありがとう」と別れようとしたら、「チップをくれ」とお約束の要求。よく見ると相手は一人増えていて、計3人になっている。
最初案内してくれたタクシー運転手にポケットから出した20ルピーを渡す。チップを、財布を出さないで素早く払えるように、いつもポケットには少しの金を入れてある。
男「俺ら三人だよー」
と食い下がる相手に、
俺「えー、3人で分けてくれよ。これで3人分だ」
とにこやかに切り返すと納得してくれた。やれやれ。
ホームに行こうかと思ったら、「まだ時間があるから一緒にコーヒーを飲もう」と駅のコーヒースタンド（といってもただ汚いだけのコンクリート空間）に連れて行かれる。
俺が出した20ルピーで、俺含めて4人分コーヒーを頼んでくれた。飲みながら7時くらいまで時間を潰す。
シゲタ・トラベルを使ってチケットを買ったというと、彼らは一様に嫌な顔をする。二人目の坊主は携帯にラジェンダさんが入っていて、「こいつだろ」と苦々しい表情で「シゲタ・トラベル ラジェンダ」と表示された携帯のディスプレイを見せてくる。
「ラジェンダはcheater（チーター、詐欺師）」
「あいつはいいやつじゃない」
「そうだそうだ」
タクシー運転手たちは3人とも深くうなずく。俺は「そうなんかね？」程度に流す。まあ彼らの意見を一笑に付すわけにもいかないよな。たとえば俺が払ってる電車切符の手数料にしたって、日本円の感覚だからそんなに高くはないかもしれないけど、現地の感覚から見ると暴利を貪っているように思えるんだろうね。
砂糖と牛乳で甘くしたインド式コーヒーを飲みながら次々と繰り出される
「お前髪型かっこいいな」
「お前いい奴だな」
「日本でiPodはいくらだ？」
「そのスニーカーはいくらだ？」
といった質問やコメントに対応していると、そろそろという時間に。
別れ際に「コーヒーおごってくれてありがとう」と言ってくる。いい人たちじゃないか。
ホームに入り、制服を着た駅員にチケットを見せ「どこに行けばいい？」と聞く。
既にタクシー運転手たちから教えてもらってはいたのだが、インド旅行で何かを確認するときは必ず２、３人に聞いて情報が同じときだけ信じるという癖を付けている。特に移動で間違えると後が面倒だ。
すると赤いセーターを着たヒゲ面親父が「どうしたどうした」と割って入ってきて、そいつが案内するという話になった。
ホームの掲示板なんかを確認してくれて、電車内に案内してくれる。すると、車両連結部で立ち止まり、「ちょっとこっちに来い」と手招きしてくる。
赤セーターヒゲ「45ドル」
俺「え？」
赤セーターヒゲ「ツーリスト・タックス（旅行者の税金）だ。45ドル払え」
ツーリスト・タックスとか絶対嘘。そもそも電車の切符が750ルピー（約1500円）で、税金が45ドルってどういう比率よ。
「え、何それ？ 45ドルも持ってないよ」というと結構あっさり諦めたみたいで、俺の席まで来て「ここだ」と教えてくれる。
今度は「俺にチップをくれ」と来たよ、やっぱり。めんどくせーけど、何だかんだでちゃんと案内してくれたので、ポケットに入っていた20ルピーを渡す。すると「もう20ルピーくれ」というので、「えー、もう20ルピー？」と呆れつつも、早くこいつを追い払いたかったので支払う。インド人はチップをあげると倍にしようとしてくることが多い。だから今回も10ルピーにしとけば「もう10ルピー」と言われたのかも。でも手元にあった一番細かいお金が20ルピーだった。
席は窓際。食事と紅茶の車内サービスがある。食事はいちいち辛い。ちなみに飛行機だと「機内食」だけど電車の場合「車内食」になるのかな？
食事の話をした直後に言うのもなんだが、電車のトイレを利用した。行為をすると、成果物が直接線路に落ちていく仕組みだ。当然紙は備え付けていない（座ったとき右手側の手元に蛇口とコップがある）。
14時ちょい前くらいにアムリトサル駅に到着。だから、7時間弱乗っていたことになるね。駅を出た直後からリクシャ客引きが当然のように待ちかまえているが、一度断ると諦める人が多く、がっつき具合がデリーよりはるかに弱い。
ちなみになぜ今回写真がないかというと、インドって駅は撮影禁止なのよ。
俺よりいくつか歳が若そうな日本人の男が「日本人の方ですか？」と声をかけてきた。一緒にリクシャに乗ろうみたいな話になったが、お互いでかい荷物を持っているのと、正直俺は別に一緒に乗りたくないのもあり、別々のリクシャに乗ることに。彼とは「また会いましょう」と言って二度と会わなかった。
最初に駅近くの観光案内所に行ってからホテルに行こうとしたが、日曜日で観光案内所が閉まっているので、「地球の歩き方」を見てここにしようと決めていたCJ Internationalというホテルへ。
モーター式ではなく、足で漕ぐサイクル・リクシャなので、荷物が重い上に坂道が多い立地できつそうだった。「ハード・ワーカーだね」と労う。お世辞抜き。
この町でやりたいのは、まずパキスタンとの国境の儀式を見ること。そして、黄金寺院を見ること。これから行くCJ Internationalは、黄金寺院に隣接している。
2時20分過ぎにホテル到着。どうやらリクシャ運転手によると、これから出発すれば国境の儀式を見られるらしい。2時45分にホテル前で待ち合わせる。
行き当たりばったりでやってる割に順調にイベントが埋まっていき、なかなかいい感じだ。
ホテルの部屋はデリーの汚い宿舎に比べればだいぶきれい。まあ値段も6倍くらい（一泊2000ルピーくらいだった）するからね。「歩き方」に書いてある値段よりちょっと高かったよ。
荷物を部屋まで運んでくれたスタッフは、チップを要求もせず去っていった。すごいなと思ったが、よく考えると部屋代にサービス料が最初から追加されてるから当然なのかな。（続く）