2012年1月29日日曜日

R・E・A・Lな一日。

1月28日(土)
Buono! LIVE 2012 "R・E・A・L"
14:00 会場
15:00 開演

ツアー名が「R・E・A・L」(リアル)と知ったとき、何たる偶然かと思った。

なぜなら俺はまさに、連れて行く非ハロヲタ二人に、リアルなアイドルのコンサートというものを見せつけてやろうと思っていたからだ。コンサート後には、桜木町は野毛町のリアルな大衆居酒屋を@yokohamalotteに案内してもらう。とにかくリアルな一日にしてやろう。それがこの日のコンセプトだった。

新高島の駅で待ち合わせて、まずは会場横のグッズ売り場へ。12時前だが既に開いていた。

グッズ情報
http://www.helloproject.com//goods/tour/12_buono_real/index.html

@karasi_gjは、ソロマフラータオル【夏焼 雅】(2000円)と、夏焼雅を応援するための赤いサイリウム(300円)。

@yokohamalotteは、ツアーバッグ(600円)と、鈴木愛理を応援するための緑のサイリウム(300円)。

二人とも非ハロヲタではあるが、今回のコンサートへの誘いを快く快諾してくれた。このような友人たちを持つのはありがたいことだ。

彼らには、自分が誰を応援するかを事前に決めてもらった。後述するように、それがアイドルのコンサートを楽しむための文法だからだ。彼らは公式グッズのTシャツは買わなかったかわりに、ちゃんとそれぞれ赤と緑の自前Tシャツを着てきている。

俺は最初に並んだにも関わらず、会計を済ませたのは最後だった。被害妄想かもしれないが、駅の切符売り場にしても、空港にしても、俺が並ぶ列はいつも進みが悪い。

買ったのは、三点。ソロTシャツ+リスト・バンドセット【嗣永桃子】(3500円)、DVD MAGAZINE vol. 11(2500円)、DVD MAGAZINE vol. 12(2500円)。計8500円と、チケット代(6350円)を上回る大きな出費だ。そりゃ、節約を優先すれば、何も買わないで済ますことだって可能だ。でも、会場で販売しているグッズにはくすぐられるのだ。会場と一部の通販でしか手に入らないから稀少価値がある。DVD MAGAZINEにしても、普通にアマゾンで売っていればわざわざここでは買わない。というか、そもそも買わないかもしれない。あと、コンサートへの参加それ自体は一度きりの経験で後に残らないから、何か形のあるものが欲しいのだ。

チケットが6350円というのは、一見、安いという感じはしない。コンサートのDVDはアマゾンで3000円くらいだ(最近出始めたブルーレイだと4500円くらい)。もちろん低画質で細切れなのは言うまでもないが、YouTubeで検索すれば過去のコンサートの動画がタダでゴロゴロ転がっている。

でも、コンサートの現場から得られる満足感は、DVDやYouTubeの動画を何十回再生しようが得ることはできない。

DVDで観る方が、はるかに便利だ。再生環境さえあればいつでもどこでも、何度でも楽しめる。コンサートを物理的に観に行くのは、場所や時間の制約があるし、手間がかかる。疲れる。しかも、DVDのように間近で鮮明に見ることはできない。その上でも、 アイドルたちと場を共有して、一緒に盛り上がって直に応援するという体験には、録画された映像作品よりも高い価値があるのだ。

ただ、どうやら一般的に、コンサートやイベントというのは入場料だけでは儲からないらしい。何かの本で読んだし、実際仕事でイベントの開催に関わったことのある友人からも聞いたことがある。で、どこで儲けるかというと、グッズだ。グッズに稀少価値や記念性を持たせて、何かしらは買っておきたいと思わせる主催者のやり方は、うまいと思う。


さあ、昼飯だ。実のところ、中学、高校、大学と、10年間に渡って横浜駅を利用していたわけだが、横浜駅周辺でリアルな飲食店を知らない。

横浜駅からはちょっと離れるが、横浜中華街もフェイクだ。あれは中国っぽい気分を味わうための中途半端な観光地に過ぎない。池袋の方がよっぽど安くてうまい中華料理が食える。もっとも、所詮、俺は中国に行ったことがない素人に過ぎないから、中華料理に関してはあまり大きな事は言えない。俺は、立川の東園という中華料理屋に週三、四回通っている。中華料理は大好きで、とりわけ麻婆豆腐と火鍋には目がない。しかし、本場の味を実地で体験したことがないというのは負い目だ。ただ、そんな俺でも中華街がリアルじゃないことくらいは分かる。

事前に「横浜駅 インド料理」「横浜駅 トルコ料理」「横浜駅 麻婆豆腐」で検索してみたものの、横浜駅周辺となると、興味をひくような店がまったく見当たらない。ここら辺の印象としては、飲食店は主に駅に隣接した商業施設の中に集中しているが、そういった店は基本的にリアルではない。ちょっと駅から歩いたところにある個人経営のイケてる店がない。

ただ、以前、横浜駅西口の、阿里城という中華料理屋に入ったことがあり、悪くなかった。500円から定食があり、比較的おいしかった。だから、そこに行った。

だけど、店が見当たらなかった。ビルごと潰れていた。

しばらく歩いて、八起という中華料理屋に入った。サンプルがやたらとでかい。特に皿うどん(800円)。

酢豚定食(800円)を注文した。煮物がついているのがいい。ご飯が多めなのにも好感。でも、肝心の酢豚の味には特筆すべき点は一切なかった。他の二人が頼んだ料理も、特別おいしそうではなかった。まあ、可もなく、不可もない、よくある日本式中華料理の店だ。飯にラー油と醤油をかけたら@yokohamalotteが驚いていた。

今日のコンサートは2時開場で、3時開演だから、2時前には横浜BLITZに着きたい。荷物や上着を預けるロッカーを探す必要もあるので、早めに店を出た。

横浜BLITZ内にもロッカーはあるのだが、Yahoo知恵袋によると、整理番号が後の方だと埋まってしまい使えない可能性が高いので、駅のロッカーを使うのが懸命らしい。俺らの整理番号である856から858番は、間違いなく後の方の番号だ。

ところが、新高島駅のロッカーを使おうとしたところ、ちょうどヲタT(アイドルを応援するためのTシャツ)に身をまとった何人ものヲタクたちがロッカーに荷物を預けて出てくるところだった。もう空きが一つもない。

iPhoneで「新高島 ロッカー」で検索すると、駅のロッカーは26個で、横浜BLITZのロッカーは663個らしい。26個なら、そりゃ埋まるわ。今日のコンサートには1000人くらい来るだろうし。ロッカーは、諦めないといけないのかもしれない。

しかしBLITZに入ると、一部ではあるが、ロッカーが空いているではないか! 即座に@karasi_gj@yokohamalotteに声をかける。何とか二つのロッカーを確保し、各自の上着やカバンを押し込むことに成功した。やった!


客席(立ち見なので席はないが)に入ったのが、2時40分くらいだった。思ったより、ステージが近い。正面で、いい感じに見やすそうな位置を取った。目の前に180センチくらいある人がいるのが若干気になったが、何とかなるだろう。仕草を見ているかぎり、「地蔵」(動いたり歓声をあげたりせず、黙って見ているファンのことをそう呼ぶらしい)のようだ。

実際、何とかなった。なぜなら、コンサート開始数分で、その人はどこかに移ってしまったからだ。しかし、それで前方の視野が確保できたかと思いきや、もっと厄介な敵が待ち構えていた。というより「地蔵」は目前にいた男を嫌がって移動したのだ。

まず、そいつは、コンサート開始直後から臭い。数日は風呂に入っていない臭いだ。

そして、すっげージャンプ力。ほぼ常に「推しジャン」(自分が推している=応援している子が歌っているときやしゃべっているときにジャンプすること)をしている。愛理ファンのようだ。こいつの身体能力と体力は、尋常じゃない。しかも、隣の仲間と、互いが飛んでいるときに持ち上げて高さと滞空時間を稼ぐというコンビ技をやり合っている。

そいつの長髪から汗が飛んできた。顔にかかった。彼自身はしばらく風呂に入っていないかもしれないが、この汗は、まさに今製造された、フレッシュなものだ。だから問題ない。そう自分に言い聞かせ、精神を落ち着かせた。

彼が視覚と嗅覚に与える刺激は、俺がステージ上に向けていた関心を削ぐほどだった。でも、一度喪失しかけた戦意は徐々に取り戻した。しばらくすると、可笑しくなってきたからだ。コンサートを観に来たら、目の前にいるやつが臭い。異様に高く飛び跳ねている。終始視界を奪われ、しかもそいつの汗が飛んでくる。この訳の分からない状況を含めて楽しんでしまおう、という気になった。

そいつだけでなく、周辺にも面倒くさそうな一味がいて、自分たちの世界に入り込んでいた。どうやら2Fに℃-uteの矢島舞美がいるらしく、「舞美がいる!」と仲間内で騒ぎまくっている(後で分かったのだが、℃-ute全員が観に来ていたらしい)。ステージ上で鈴木愛理が歌っているまさにその最中にも関わらず、後ろを振り返って2Fを凝視している。おそらく、コンサートやイベントに通い詰めている(であろう)彼らにとってステージ上の光景は日常であり、℃-uteのメンバーが上にいるという不規則な出来事の方が大事なのだろうと思う。

前の奴らのことをよく思わなかったのは認めるが、だからといって彼らを一方的にディスるつもりはない。多少不快でも俺は彼らの欲求を許容し、尊重してあげたい。おそらく彼らの根底には、自分が好きなアイドルに認知されたい、だから目立って、アイドルたちに自分を見てもらいたいという欲求があるのだと思う。それは理解してあげたい。そういう人たちが一つの層として、一定数存在することが、全体としての盛り上がりに貢献していることは否定できない。あれは彼らなりの楽しみ方であって、他の客に喧嘩を売ったり、同じようにするのを強要しているわけではなかった。


開演前に「客席でのモッシュやダイブはやめろ」という注意アナウンスが流れたのだが、注意するまでもなく、アイドルのコンサートでそんなことはまず起きないだろう。なぜならアイドルのコンサートでは客同士の交流は希薄だからだ。もちろん仲間同士で来ている客もいるが、基本的に、アイドルのコンサートに来る客というのは、ステージ上のアイドルだけに集中している個人の集まりなのだ。

アーティストのダイブなら、見たことがある。K DUB SHINEのコンサートを渋谷に観に行ったときのことだった。しかし客席がそんなに密集していなかったので、渋谷のドンは隙間に落ちて、足を負傷してしまった。

Buono!の三人は、彼女たちの本職(?)であるBerryz工房と℃-uteの中でも、比較的人気のあるメンバーたちだと理解している。だから、三人の人気は、ほぼ同じくらいなのかなと思っていた。でも会場は思った以上に、鈴木愛理のファン率が高かった。歓声やペンライトから判断するに、大雑把な印象としては、

鈴木愛理ファン:40%
嗣永桃子ファン:35%
夏焼雅ファン:25%

という感じだった。

アイドル界には「DD(『誰でも大好き』の略)」や「箱推し」といって、特定の人を定めず、グループ全体を応援するというやり方もあるようだ。でも、自分の「推し」は決めたほうが面白い。

俺は、今までたった三回しかハロプロのコンサートを観に行ったことがない一般人だが、その貧弱な経験を元に言わせてもらえば、嘘でもいいから自分の「推し」を作って、その子の色のTシャツを着て、その子の色のサイリウムを振って参加した方が、コンサートを楽しめる。というのも、たとえばBuono!というグループであってもコンサートでの掛け声はあくまで「あいり!」「ももち!」「みやび!」と個人に向けられるからだ。他の客と合わせて一緒に名前を叫ぶのは、爽快だ。

だから、今日のコンサートに臨むにあたって、@karasi_gj@yokohamalotteには自分が応援するメンバーを無理やり決めさせた。Buono!が三人で、ちょうど俺らも三人だったので、かぶらないように選ぶようにした。自称「黒髪原理主義者」の@yokohamalotteは鈴木愛理を選び、消去法で@karasi_gjは夏焼雅。

嗣永桃子は譲れなかったので、先に俺が取った。昔の松浦亜弥や、今で言えば道重さゆみや福田花音、そして嗣永桃子といった、自然体ではなく、思い切り作り込んだ人工的なプロフェッショナル的アイドルに魅かれる。「アイドルとは何か」を考えながらアイドルをやっているような人たちである。ラッパーにしても、「HIP HOPとは何か」を常に問いかけながら活動している人たちが好きだ。日本で言えば、K DUB SHINEやキリコ。そういう人たちを、俺は尊敬している。

嗣永桃子に関しては今日初めて生で見るまで2、3年はROMってきた。文化放送でやっているラジオ番組「ぷりぷりプリンセス」が好きで、毎週聴いている。俺には文化放送に勤めている友人がいるのだが、彼とは「嗣永桃子は天才だ」ということで意見が一致している。

今回、初めて嗣永桃子を生で観ることができて、感慨深かった。

彼女の場を盛り上げる話術は、群を抜いている。自己愛と自虐の絶妙な配合。自分がファンから何を期待され、どう認識されているかを熟知したうえで、それを利用して反応を引き出している。

「ももこー!」と存分に叫んだ。はじめは「あいり!」や「みやび!」も叫んでいたが、とてもじゃないが、全部やってたら喉が持たないので、途中から「ももこー!」にほぼ専念した。それでも喉が痛くなった。

激しい曲が多かった。一つだけ曲名を挙げると、特に「DEEP MIND」には高揚感を覚えた。快感。ちゃんと聴いたことがなかったが、ここまでかっこいい曲だったのか。

本当に、Buono!の三人は、長年のキャリアと場数を踏んだプロフェッショナルだ。確実に場を掌握して客を盛り上げるその力量を目の当たりにして、そう確信した。

「℃-uteの日」のDVDを観ての印象では、ライブ・ハウスでのコンサートでは、もっと客が入り乱れるのかと思っていた。しかし今回のBuono!のコンサートではほぼみんな最初に立った定位置に留まっていて、押し合いへしあいみたいなのはなかった。



耳鳴りに耐えつつ、桜木町へ。@yokohamalotteの導きで、二軒の店に入った。

まずは、「福田フライ」という立ち飲みのフライ屋さん。「福田フライ」というのは通称で、公式には「フライ屋」という一般的な名称しか出していないらしい。辛いソースが名物らしいが、その辛さの正体は、大量のにんにく。

背中合わせに2列で立ち飲みするスタイルの店で、10人も入ればギューギューになる。しかも、二人で店を回しているので、それだけ客が入ると注文をまともに捌くことができない。おばあちゃんが入口に近いところで揚げていて、おじさんが肉を切ったり、酒を出したりしている。おじさんが、「誰が何を注文したのか全然分からない」「注文を受けたら言わないと分からないだろ」と、ずっとおばあちゃんに怒っていて、笑えた。@yokohamalotte曰く、いつもこんな感じらしい。途中から受注管理専任のおばさんが追加されて、混乱はだいぶ治まった。

何だこれは、めちゃうまいぞ! 全部。特にワカサギ。独特の辛いソースは、甘さがなくて、癖になるが飽きなさそう。

各自が生ビール2杯と、揚げ物色々と刺身を食べて、合計で5190円。

二軒目は、「一品料理 トモ」。奥に4人掛けの座敷が二つ、手前には6人くらいのカウンター。こじんまりしていて、初めてなのにやけに落ち着く店だ。席につくなり、いきなり店のおばちゃんが名刺を渡してきて「携帯に入れておいて」と言ってきて笑いを誘う。この方は、何か注文する度に「ありがとう」を連呼して、とても感じがよい。夫らしき男性と店を切り盛りしているようだ。

スモーク・レバー、春巻きピザ、ハムカツ、ポテトサラダ、ザーサイ、セロリの漬物等を頼んだ。酒は@yokohamalotteはビール、俺はマッコリに専念した。@karasi_gjは日本酒らしきものを飲んでいた。

合計で7500円。たくさん飲んだ(特に@yokohamalotte)割に一人2500円で収まったのは、途中から@karasi_gjが寝始めて酒を飲まなくなったのが貢献している。

すごく気分がよかった。

声を出し過ぎたせいか、でかい音を聞きすぎたせいか、酒のせいか、帰りの電車では少し頭痛がした。家に着いたのは深夜12時半くらいになった。

リアルとは何か。それを、身体で感じた一日だった。

Buono! 『DEEP MIND』