2014年5月7日水曜日

キース・ジャレット ソロ2014 Bunkamuraオーチャードホール 5/6(火・祝)19時開演 参戦記録

開演前









大阪公演での事件※を受けて客も運営もピリピリしているのが伝わってくる。

※参考1:キース・ジャレット ソロコンサート | MY Favorite Things http://red.ap.teacup.com/mitsuyo/2325.html
※参考2:キース・ジャレット、大阪でキレる - Togetterまとめ http://togetter.com/li/662693

咳を防ぐためにマスクをしている人もちらほら。私もそんなに咳をする方ではないがいざ「するな」という状況になると変に意識してしまって、緊張する。

思ったよりいい席だった…一階の後ろブロックの一番前。ステージから完全に見える。咳払いしたら「おいそこのお前!」と特定されるレベル。これは重圧がかかる。

喉飴を持ってくればよかった。会場でパンフレットやCDよりも喉飴を売った方がよかったのではないか。

開演前のアナウンス。英語はdo not cough咳をするなと明確に言っていたけど日本語は大きな咳やくしゃみをするときはハンカチで押さえる等のご配慮を…と婉曲的な言い方だった。

開演後

キース・ジャレットが登場し会場には歓迎の拍手とともに異常なほどの緊張が走る。

前半の3曲目(メロディアスな曲だった)終了時点でキースはかなり乗っていた。「フー!」と声を上げてから4曲目を始めた。

グーピーいびきをかく猛者がいる。幸いにもキースは気付いていなかったか、もしくは気付いてもそれで怒りはしなかった。

5曲目序盤でやっぱこれは違うという感じで演奏をやめて新しい曲を始めた。この前半最後の曲が神がかっていた。キースも納得の表情で演奏後客席に頭を下げるときうんうんと頷いていた。この曲が信じられないくらいに美しかった。信じられないくらいに。いつかCDで聴き直せる日が来ることを願う。

私はコンサート前半、緊張のせいか強い尿意を催して今の俺なら童子-Tみたいな感じで尿意-Tを名乗れるかなと思うくらいだった。休憩時間に入るや否やトイレに文字通り駆け込み事なきを得た。

後半の一曲目冒頭で大きな音を立てて荷物を床に落とす客。キースも「おーい」って感じの声を出して演奏を中断するもBetter than beginning(最初よりは客の鑑賞態度がマシ)とおどける。

(NAVERまとめで目にしたあるジャズ批評家のツイートでは演奏中断したときにキースが発した言葉が「曲の最初でよかったね」と書いてあったが、英語としてどう聞き取ったのかが気になる。Better than beginningと聞こえたが。物を落とした音に「さすがにそれはないだろ」って一旦中断しながらも「でもみんな冒頭に比べて集中して聴いてくれてるよねw」とおどけて、客を萎縮させないように気を使ったのだと私は理解した。私が間違っているのかも知れないが、あの英語をどう聞き取れば前述の解釈になるのか純粋に興味はある。)

後半2曲目の出来に納得行かないらしく冗談で横にはける仕草。前方の客がおそらく「今の曲よかったよ」的なことを言う。キ:Even that one? 客:Yeah キ:Goodとのやり取りで機嫌を取り戻す。次の曲演奏するまでにうーんと悩む。

私を含め客席は最初は緊張感が強すぎて集中し切れていなかったが、進むにつれてのめり込んでいった。キースもノリノリだったと思う。それが4回ものアンコールにつながった。最後は大半の客が立ち上がって拍手。4回目のアンコールの後もスタンディング・オーベーションは鳴りやまなかったが会場の照明が付いて終演となった。大阪で観た人が聞いたら悔しがるだろうなあ。

客も気を抜けない空間だった。ピクニック気分で観に来るもんじゃない。キースはよく客席に顔を向ける。客が試されている。何だこの美しい曲は!と思っても誰かが大きな音を立ててキースの集中が切れたら終わるのではないかという恐怖。しかも即興だから二度と再現出来ない。

客がだれたらそこで曲が終わる感じがした。入り込めていないのを見透かされているというか。こちらの集中が途切れたらそこで曲も終わり。鑑賞態度が直接、曲に影響を与えている感じがした。静寂が必要ならスタジオでやれよと思うかもしれないが、たぶんスタジオで同じ音楽は生まれない。

いつ客席の誰かがヘマをして公演が台無しになるんじゃないかというあの緊張感、今まで味わったことがなかった。少人数ならともかく客は2000人いるわけで。あれだけ観客がいると多少の音は致し方ないかと思った。キースは前評判通りというか、かなり神経質で、観客にも緊張と集中が求められた。

私はキース・ジャレットのリスナー歴がほぼ一年の新参だが夢中になって様々なアルバムを繰り返し聴き、彼に関する本を2冊読んだ。そんな彼のコンサートを生で体験出来たのは本当に嬉しかった。緊張と集中の先に至高の美しさが待つ濃密な時間だった。別世界に連れて行かれた。二度と再現出来ない音楽が目の前で作り上げられているという何とも言えない感動があった。一生の思い出になった。