2011年1月3日月曜日

大学時代までJEANS MATEで服を買っていた俺が、ヨウジとギャルソンを愛好するようになるまで。(6)

立ち上がりって言ってもさ、冷静に考えたら、春夏もしくは秋冬の、最初の入荷日、なんだよ。単に。

そのシーズンの服すべてが一斉に入荷するわけじゃなくて、その後も半年にかけて新作は出てくるわけだから。

でも、他の入荷日にはない特別な高揚感が、立ち上がりの店頭にはある。

お客さんは普段より多い。お客さんだけでなく、店員さんも、どこか浮足立っていて、ワクワクしている。基本、ギャルソンやヨウジの店が、ユニクロみたいに客でごった返すことはまずない。価格帯が違いすぎるからね。でも、立ち上がりに限って言えば、ユニクロと張るくらいのせわしなさがある。

ヨウジよりもギャルソンの方がその点はすごい。通常だと、ギャルソンでは一人の店員さんが一人のお客さんをじっくりと接客していくんだけど、俺が立ち上がりの日にコル・ソ・コモ(ギャルソンの路面店の一つ)に行ったときは、俺を担当してもらっている店員さんは俺と並行して他に二組のお客さんの対応をしていた。一人が試着している間に別のお客さんと話して、みたいな。

立ち上がりはただでさえ人が多いから、服に対する競争率は高くなる。ショーに出ている服なら、店員さんと関係が築けていれば事前に自分の分を取り置いてもらうことができる。でも、ショーには出ていなかった服で、想定外の良作が入荷する場合もある。しかもそういうのに限って各サイズ1、2点しか店になかったりするから、いいと思ったら早く確保しないといけない。だから立ち上がりというのは、よく言えばワクワクするんだけど、落ち着いて見させてはくれない。



2007年春夏のジュンヤの世界にやられて、そこで上下で揃えた。ジャージ生地で、紺を基調に、赤、白、青を織り交ぜたセットアップだった。本当に着る度にドキドキして、最高の気分になれる一着だった。「だった」って言ってるのは、つい最近オークションに出したからだ。(パンツは売れたけど、ジャケットはまだ残っている。誰か買ってくれ。)ジュンヤのコレクション・ラインの服は、身にまとうことで最先端を文字通り肌で感じることができる。でもその反面、飽きやすさを持っていると俺は思っている。

(ジュンヤの飽きやすさをめぐる自分の考えについては、「ジュンヤの服は、2年で飽きる。」を参照されたい。)

まあそれはともかく、その前後から、「色々なブランドを自分の好みに合わせて取り入れていく」という考えが自分の中で破綻しだして、一つのブランドで固めることこそコーディネートであり、ファッションである、という考えに傾いてきたんだよね。

そうなってくると、ヨウジ・ヤマモトが無視できなくなってくる。というのも、ヨウジの服ってのは、もう見るからに他のブランドとの合わせを受け付けないような、それはもう独特の雰囲気があるんだ。基本的に上下黒のスーツみたいな服ばっかだし、あとサイズ感も普通じゃない。簡単に言うとでかいんだけど、単にサイズを上げただけの大きさとは違った何かを感じる。それが何かって言われると、今でも明確には分からない。でも、黒さであったりサイズ感であったり、あとはそれに素材感、そしてもちろん刺繍やプリントによる装飾も合わさって、他のブランドを寄せ付けない独自の世界を構築しているんだ。

たとえば、俺が持ってる服だと、ジャケットの背中に男性の手が女性の手を掴んでいる刺繍があって、下に「DON'T DO IT(やめて)」とプリントされていたり、ジャケットの胸にイトーヨーカドーみたいなハトのアップリケが付けてあったりする。

ヨウジの服は、全身で揃えてナンボだ。ジャケットだけ買ってそれをさらっと他のブランドのパンツと合わせる、っていう感じじゃない。ヨウジのジャケットは、あくまでヨウジのパンツやヨウジのシャツと合わせて初めて意味を持つ。ヨウジ・ヤマモトの服は、身体全体で着る服なんだ。

ジャケットは10~15万円、パンツは4~6万円、シャツは3~5万円くらいする。それらを一通り揃えるってのは、そりゃ普通の会社員では気軽にできないよ。

ヨウジを着るには、まず独特の服を着た独特の人になるという点で覚悟が必要だし、それなりの出費を要するという点でも覚悟が必要だ。だから、参入障壁が高い。

まあ、何回も世界、世界って言ってるけど、例外は、靴やベルトといった小物だ。いくらコレクション・ブランドが世界であるといっても、小物であれば他のブランドを取り入れても世界を崩さないことは可能だ。まあ、そうは言っても俺はヨウジを着るときは靴もベルトもカバンも靴下も全部ヨウジで統一しないと気が済まないんだけどね。

だから、小物はコレクション・ブランドへの入り口として有効だ。俺がヨウジを買い出したのもまずはマフラーからだった。2006年の秋冬だった。池袋の西武だった。ショッキング・ピンクのマフラーだった。これは今でも持っている。当時、ギャルソン・オムで買ったショッキング・ピンクのジャケットの上に巻いたり、ジルボーで買ったピンクのブロック・チェックの上下の上に巻いたりしていた。その頃がピンク好きの頂点だったね。

そのときにピンクのマフラーを買った店員さんとは、今でも付き合いが続いている。4年以上。考えてみれば長いよね。

ヨウジで服を買い始めたのも、ジュンヤと同じく、2007年の春夏だった。そのときにジルボーは完全に切った。ブランドを三つ掛け持ちだなんて、いくら無茶な散財をしたって無理だって。二つだってきつい。

2007年春夏の、黒字に銀の水玉が入ったセット・アップが、初めて買ったヨウジのセットアップだ。今でも着ているし大事な服の一つだ。

ただヨウジの服は、夏の服じゃないんだよな。日本(東京)の夏は暑いし蒸すから、汗をかく。汗をかくってことは、服に汗が付く。服に汗がつくってことは、着る度に水洗いしないといけない。シミになるからだ。となると、家の洗濯機で洗えないと夏服としての実用性に欠ける。

ヨウジの服は、基本的にスーツ地で、もちろん春夏には麻を使ったりもしてるけど、少なくとも気軽に洗濯機に突っ込む類の服ではない。だから秋、冬、春の服なんだよね。ジャケットを着ても暑くない時期が、ヨウジのシーズンだ。

それって、実は(東京では)1年の半分くらいしかない。涼しかったり寒かったりするうちに存分に楽しんでおかないといけない。

夏は、ジーンズにTシャツなんですよ。

2007年の春夏から2009年の春夏までは、ジュンヤとヨウジという二つのブランドに、お金を実質的にすべて使っていた。

刹那的な楽しみを消費し続けるのが虚しくなって、ジュンヤからは離脱した。

ヨウジは今でも続いている。ヨウジは、俺にとって、おそらく人生で一番好きになったブランドだ。(続く)