二日目(2月6日)
シゲタ・トラベルがたしか朝9時からだと昨日聞いた。8時とかそこらに起きて、いよいよ本格的にインド一人旅が幕を開けたという緊張感を味わいつつ一日の予定を考えていると、9時になった。覚悟を決める。モーニング娘。の道重さゆみさんが毎日家を出る前に「よし、今日も可愛いぞ!」とやるみたいに、鏡に向かって「よし、行くぞ!」と気合を入れてシゲタ・トラベルへ。
(ホテルすぐ前の通り)
ラジェンダさんは日本語が通じる。アムリトサルまでの電車切符の手配をお願いした。チケット代750ルピー+手数料200ルピーで、950ルピー。ちょいと手数料の割合が高くないかい、という思いは封殺。駅に行って自分で格闘するのもありだが、正直それは気が重い。切符ごときで何を弱気なと思うかもしれないけど、この国では普通のことを普通にやるのが大変なんだ。少なくとも、不慣れな外国人観光客にとっては。
アムリトサルから先(アムリトサル→ダラムシャーラー→デリー)の移動方法について、何か有益な情報を聞けるかと思ったが、それに関しては「自分で頑張ってね」「はい」ということで話が終わった。
インターネット・カフェの場所を聞いたら、「その辺にたくさんあるよ」というご回答。ですよねー。はい、甘えないで自分で探します(泣)。
「前も(インドに)来たことあります?」とラジェンダさん。実は2年半前にはじめてインドに来たときも彼にお世話になったのだが、何とおぼろげながら、俺のことを覚えているらしい。ちょっと嬉しい。
あとは、デリーの街を堪能するぞ。具体的には、
・「地球の歩き方」を見てると名刺が作れる店があるみたいだから、寄ってみたいな。
・映画館に行って映画を観たい。
・インド人から見てモーニング娘の誰が可愛いのか、聞き取り調査を進めないといけない。
・ネットカフェでツイッターに旅行記ツイートを投稿したい。
・タンドリー・チキン発祥の店、「モーティ・マハル」で飯を食いたい。
メイン・バザールを歩いていると、数十秒毎に怪しいインド人に声をかけられる(というより、インド人はみんな怪しい)。明らかに目からして悪そうな奴もいれば、そうでもなさそうな奴もいるが、おしなべてフレンドリーだ。
(この国で話しかけられなかったら逆にすごいぞ)
ツイッターが恋しくなっていた俺は、そのうちの一人にネカフェの場所を聞いた。すると「俺が案内してやる」というので着いていく。
道すがら、そいつにモーニング娘。のジャケ写を見せて「どの娘が一番可愛いと思うよ」と聞くと、道重さゆみさんを指指してた。えーっとさゆみんに一票、と。
しかし「インターネットがタダでできるところがある」と言って連れて行かれたのが、旅行代理店。これからどこに行くんだ、何をするんだ、いつまでインドにいるんだ、と質問攻めにしてきた挙げ句、何とか俺にツアーを組ませようとしてくる。
でも、俺インド初めてじゃないからね。そんなのにびびって契約しないよ。これからの予定は完璧に設計済みであること、ツアーは必要ないことを繰り返し説明し、丁重にお断りする。
次にそいつが俺を連れていったのは、紅茶やスパイスの店。どう見ても怪しいよね。いくら贔屓目に見ても、とりあえずその紅茶屋から客の紹介料をもらおうとしていることは確実だよね。そして最初のインターネット・カフェの話はどこかに行っちゃってるよね。
その時点で、かなり嫌な予感はしてた。でも反面、こういう訳の分からない出来事がインドの醍醐味なのもたしか。楽しんでる自分もいる。
怪しさに拍車をかけるのが、やたらと俺の仕事や年収、インドまでの飛行機代を聞き出そうとしてくるのよ。金の話はなるべく適当ににごしたけどね。
半分嫌々入った店だったけど、意外と面白いお茶が置いてあって、マサラ・チャイ(160ルピー)とマサラ・チャイ用のスパイス(240ルピー)を買ってしまった。そこら辺の地元民用の店よりはたぶん数倍高い。けど店主は、「そこらで売ってるお茶はフェイク。ゴミを混ぜてるぞ。飲むとお腹を壊すぞー。その点、うちのお茶は100%リアル、不純物なしだぜ、安心品質だぜ。ピース」と熱弁。
そして値引き交渉したが、向こうは「うちは定価販売」と譲らない。「インド人にも同じ値段で売ってるんだな? そして誰にも値引きしたことないんだな? あなたのことを信頼していいんだな?」と問い詰めると、「誓っていい」と言うので、握手して定価で買うことに同意。
それがこの親父。日本語が達者だった。彼が発した言葉に嘘がないことを祈る。
店員2人と店主に例の調査を行ったら、光井愛佳さん、高橋愛さん、道重さゆみさんにそれぞれ投票してた。
店を出ると、俺は(勝手に)案内してくれたインド人に言ったよ。「俺はインターネット・カフェに行きたいんだ。もう自分でメイン・バザールに戻って探すよ。じゃあの」。するとそいつは意外にもあっさり受け入れて、「俺も方向が同じだから一緒にリクシャに乗ろう」と提案してきた。
その男が右に乗って、俺は左に乗った。すると、すかさずそいつの「友人」が左から詰めてきて、俺を挟み込んできた。
あー、これはやばいな。
最初はインドにようこそから始まって、日本で何をやってるんだとか聞いてきた。これ、一見ただの世間話に見えて、実は違うのよ。要は、こいつらは俺から金を巻き上げよとしていたわけ。そこでいくら出させるかを、インタビュー調査で検討していたんだ。
運転手もグル。俺を真ん中にしたのも逃げられないようにするため。
そこで始まりましたよ。「俺らに一人1000米ドル、計3000ドル払え」と。その瞬間、「YouTube動画ネタキター」と思ったね。ばれないようにコンデジの電源を入れて動画を回したよ。幸いにも、レンズが出ないタイプのカメラだから、相手が撮影されてるの気づきにくいのよ。このカメラ、画質はよくないけど、安かったしインド旅行では重宝したね。
恐喝されるのなんて、中学生の頃、横浜駅の外れで高校生に1000円出せと言われて、小銭しか持ってなくて何も払わずに逃してもらったとき以来だよ。
途中から雰囲気が緊迫してきて、最終的に決着するまでは撮影できなかったけど、俺が奮闘してる様子はYouTube動画を見てみてよ。
インド人に恐喝される日本人 A Japanese gets blackmailed by Indians part. 1-2
インド人に恐喝される日本人 A Japanese gets blackmailed by Indians part. 2-2
まず、3000米ドル出せという向こうのはじめの要求に対して、堂々と「10ルピー(約20円)なら払えるよ(笑)」と一発目の発言で強気に出られたのは大きかったと思うよ。
向こうも向こうだけどこっちもこっち。そんな金はない、払えない、Xルピー(先方要求から大幅に減額)なら払える、とごねまくる。
30分くらいすったもんだして、最終的に一人200ルピー、合計600ルピー(約1200円)を払って逃がしてもらった。
NHKのラジオ英会話みたいに全部英語と日本語で文字に起こそうかと思ったけど、すぐに諦めた。マサト・オオスギさんとかマーシャ・クラッカワーさんが講師の頃毎日聴いてたよ、ラジオ英会話。
全文トランスクリプトは断念するとして、双方の主な言い分をレトリック(修辞学。説得の学問)の三原則であるエトス(ethos 権威)、パトス(pathos 感情)、ロゴス(logos 論理)に当てはめて整理してみる。
日本人は情に訴えかければ金を出すと思ってるのかもね。しかし、そんなやり口は俺みたいな冷血な日本人にはあまり有効ではないのである。ちなみにレトリックについては香西秀信氏の『論より詭弁 反論理的思考のすすめ』(光文社新書) が素晴らしかった。(参考:昔書いた書評http://shiraimon.exblog.jp/5817599/
600ルピーで合意してからも、メイン・バザールで降ろせ! 降ろすまで金は払わない! と、ごねまくった。知らないところで降ろされてもそこからがまた大変だからね。そうすると相手は、俺が人だかりに向かって、「リゾナント・ブルー」の道重さんみたいに「ヘルプミー!」と叫ぶのを警戒してか、人通りの少ないところでリクシャを停めて、「そこに入ったらメイン・バザールだ」と言う。
("HELP ME"の出典が分からない人はようつべで「リゾナント・ブルー モーニング娘。」で検索して、ビデオ・クリップの4分30秒あたりを見てほしい。)
最後、お支払いを済ませて晴れてリクシャから降ろしてもらって、じゃあねーと手を振ると、向こうも振り返してくるのがインドである。ワルになりきれないのがインド人の可愛いところだ。
そこら辺に座ってる白髪ヒゲ老人に「ここ入るとメイン・バザールか?」と聞くと「そうだ」と返事。どうやらちゃんとメイン・バザールで降ろしてくれたようで一安心。
相手と丁々発止のやり取りをしている最中は、俺としては自分落ち着いてるな、怯まず対応できてるな、と思っていた。
しかしリクシャから降りると、手が震えていることに気付く。やっぱり怖かった。
くじけずに、インターネット・カフェを探す。何人もの通行人に聞くが、誰もはっきりとは分からない。あっちの方だよという情報を元に歩いてみても、それらしき施設にはたどり着かない。誰だよ、「そこらにたくさんある」って言ってたラジェンダさんは。うーむ。ひとまず諦めるか。
(すみません、ここら辺にインターネット・カフェはありますか?)
お腹が痛くなってきた。旅行が始まったばかりで情けないが、精神的にも肉体的にも少しきついようだ。宿舎に戻って1時間くらい横になるか。胃が食事を受け付けそうにないので、昼飯はスキップしよう。
ホテルへの帰路で会ったピンクのポロシャツを着たインド人が、いい人だった。チャイ屋台でチャイをごちそうしてくれた。「いやあ、変なインド人につかまってね、金出せって言われたんだよ」とさっきのことを話すと、彼は、断っているときの勝間和代さんみたいな感じほどには手をまっすぐに伸ばさずに右手の手のひらを俺に向けた。
「俺の手を見てみろ。5本の指があるよね。同じ手でも、全部長さが違う。インド人も同じなんだ。いい奴、悪い奴、色々いる。悪い奴は無視すればいいんだ。」
という素晴らしいお言葉をかき消すようにモーニング娘。の誰が一番可愛いと思うかを聞いたところ、彼は高橋愛さんを選んだ。「とても美しい」とのコメントをいただいた。
「落ち着いて散策したいんだ」と言うと、「メイン・バザールは商売人や詐欺師だらけだから、コンノート・プレイスに行け。そこの角を右に曲がってちょっと歩いたところだ」という助言をくれた。
ついでにそのチャイ屋にたむろしていた客にモーニング娘で誰が一番可愛いかを聞いたら、いつの間にか人が集まってきて思った以上に数が稼げた。えっとここではね、ジュンジュン6票、新垣さん1票、高橋さん1票、田中さん1票、光井さん1票、久住さん2票(このときはご存知の通りすでに卒業していたが、まだ在籍していたころのジャケ写を使って調査した)って感じかな。
そのときの模様を動画に撮ったので公開するよ(動画外で一人久住さんに投票)。
はっきり言って大変だよ、見ず知らずの人に声かけてこんな訳の分からないことを調べるの。なんでこんなことをわざわざ自分から考えてやってるんだろうって、これをやることを決めた過去の自分が少し恨めしくなった。
ま、このときの心境としては、とにかく面白いことをして、日本に持ち帰って面白い旅行記を書きたかったということに尽きるかな。
よし、ホテルで一休みしたらコンノート・プレイスに行くぞ。嫌なことに負けないで、楽しむぞ。(続く)