2010年5月3日月曜日

2010年2月5~15日インド旅行記 (7)

「地球の歩き方」を見てると、Ladie's Venture Hotelというのが評判がいい。何やら部屋が清潔で、ホット・シャワーで旅の疲れも吹き飛んでしまうらしい。しかも一泊220ルピーと来たもんだ。

マクロード・ガンジは町全体が坂になっていて、中心部から5分くらい降りたところにLadie's Ventureがある。

支配人はインド人にしてはおとなしそうな雰囲気。部屋を見せてもらう。

シャワーとトイレはあるが、隣の部屋と共用らしい。自分が入っているときは、隣の部屋に通じている扉に鍵をかけることで独占使用権を確保する仕組みだ。

部屋はまあたしかにそこそこきれいだ。値段聞いたら200ルピーとのこと。外は雨だし、インドなのに同じ時期の東京近郊より寒いし、今から別のホテルをあたるのも手間なので、おとなしくここに決める。

毛布が一枚しかベッドにないので、主人に頼んでもう一枚もらう。


(部屋の鏡。チベットの拠点らしく町中にフリー・チベットの文字が)

午後10時頃、Tシャツ+トレーナー+ユニクロのフリース+毛布を上下に一枚ずつ+布団という、ファイナル・ファンタジーVでいうところの「にとうりゅう」のくらいのフル装備で就寝。(4/11日目、終了)

五日目

しかし、あまりの冷たさに何度も目が覚める。そのまま目をつむっても耐えきれない極寒ぶりに、たまらずスウェット・パーカを重ねるがそれでもきつい。

外はしょっちゅうピカピカ雷が落ちている。洒落にならないくらい本気で天気が悪い。窓の外を見ると、雪が積もっている。ふんわりした雪ではない。固いひょうみたいな物体がバシバシ地面を叩いている。

そしてよく見ると、窓がちゃんと閉まってないというか、閉まらない。深夜はおそらく氷点下なのだが、その外気と大差ない気温なのだろう。

え、エアコン? 暖房? あるわけないでしょ、そんなの。

そんな感じで寝たのか寝てないのかよく分からないまま午前6時か7時くらいになった。外へ出たいが、しばらく身動きがとれなさそう。

仕方ないので本を読もうと電気を付け、毛布にくるまって本を開いたところで停電。あまりのタイミングに笑いたくなる。

ただ、そのまま待つのもきつすぎて、午前8時くらいに多少雨(雪)が弱くなったかなというところでえいやっとチェックアウトを決断。とは言ってもそもそチェックインをした覚えがない。口頭で「この部屋にする」と伝えただけだ。普通、パスポートの提示を求められて、向こうがコピーを取るもんだ。そのままばっくれても分からないんじゃないかな、という思いが頭をよぎる。だが高校時代に通学時MDウォークマンで音楽を聴いたり駄菓子屋やCD屋に行ったくらいしか校則違反をしたことがない優等生の私にそんな行動がとれるはずもなく、作業部屋みたいなところで主人を見つけてチェックアウトしたいと伝える。「もう帰るのか。これからどこに行くんだ」みたいに言ってくるが「上の方に行くんだ」と適当にあしらう。

「どこに行ったら傘を買える?」と聞いたら、「うちにあるから売ってやる」と期待通りの答え。100ルピー。「マーケットだと150ルピーするぞ」とのこと。それが本当かは分からないが、マーケットまで雨がしのげるだけでも価値がある。

とにかく、もっといいホテルに移りたい。温かい場所で過ごしたい。

足下は雪が積もり、靴の中までずぶ濡れだ。


(何この天候・・・)

うわあ、これはつらいなあ、と思ったそのタイミングで、ホテルの客引きが現れた。ここで変な宿に連れて行かれてもしょうがないので断ろうかと思ったが、その男が出したホテルのカードを見ると「ANNEX(アネックス)」と書いてある。ん、ここはたしか「歩き方」で紹介されてた中級ホテルだ。悪くないかもしれない。付いていこうか。

部屋を見せてもらうと、悪くない。さっきまでのLadie's Ventureとは隔世の感がある。部屋は格段にきれいだし、ベッドが見るからにちゃんとしてるし。しかも、暖房はないものの、部屋の中が明らかにLadie's Ventureより暖かみがある。Ladie's Ventureの部屋は一階の角部屋だったんだけど、こっちは上下左右に部屋があるっぽい。だからかな。それとも窓がちゃんと閉まるからかな? よし、ここにしよう。

ヒーターは別料金を払えば持ってきてくれるらしい。ああいいさ、この際金に糸目はつけないさ、数百ルピー程度なら。ちなみに部屋代は一泊400ルピーで、ヒーター付けると600ルピー。結構安いじゃないかよ。「歩き方」には850ルピーと書いてあるぞ。

上のテラス(オフィスが併設)に行ってチャイをもらう。パスポートを渡す。

これでいよいよヒーター付きの快適な部屋を満喫できると気分上々になったところで、停電してがっくり。

宿泊客でヨーロッパ人のおばさんがいたので会話。

俺「寒すぎて前のホテルで眠れなかったんだ。だからホテルを替えに来たんだ」
ヨーロッパ人「ここに泊まってる別の人でスペイン人がいるんだけど、その人も同じ理由でこっちに移って来たみたいよ。おかげでこっちは暖かくて眠れると言ってたわ」

ヨーロッパ人「私は腰が悪くて、柔らかいベッドはだめなんだ。だからいつも床にマットレスを敷いてそこで寝てるの」
俺「日本でもそういうスタイルで寝るよ」
ヨーロッパ人「そうね、日本にはあれがあるものね、ほら何と言ったかしら・・・」
俺「FUTON」
ヨーロッパ人「そうそう、FUTON!」

よく知ってるな、この人。

電気が戻ったらヒーターを持ってきてくれるらしい。それまで部屋で休むことにしよう。

しかし、しばらく待っても停電したままだ。電話もつながらないのでテラスまで上がり、口頭でルーム・サービスを注文。フレンチ・フライ(70ルピー)、オムレツ(30ルピー)、ホット・チョコレート(50ルピー)、野菜スープ(60ルピー)、ピーナッツ・バター・トースト(25ルピー)と豪華な内容。しばらくまともな食事をしてなかったからね。おいしくはない。フレンチ・フライが変な魚臭い油の味がする。


(作りたてのはずのフレンチ・フライがフニャフニャ)

あと、靴を乾かすために古い新聞紙をもらう。

今回インドに来てから初めて味わうフカフカ感のあるベッドに横たわり、ボーッと色んなことを考える。

本を読み始めるが、昨日の宿舎よりは温かいとは言えヒーターもなく何だかんだで寒く、寒さでそのまま寝てしまう。

午後1時30分くらいに目が覚める。1時45分くらいに電気がようやく付いた。2時10分くらいまでノートに旅行記を書くが、ヒーターがまだこない。上のオフィスに行って「ヒーターはまだかよ」と言うと「ちょっと待て」と向こうはペースを崩さない。

オフィスにコンピュータがあり、ネットを使わせてくれるということだったが、聞いたら「(停電の影響で)ネットがつながらない」らしい。

仕方ないので外に出て探す。




(町)

マクロード・ガンジはそこら辺にインターネット・カフェがたくさんある。

Nick's Italian Cafeというレストランの先にあるネカフェに入るが、ネットが遅すぎる。店員に「ネットの接続に問題があるんじゃないか」と言うと「見てるページが悪い」と適当なことを抜かしやがる。結局、ホットメールにログインすらできないまま1時間近くすぎ(午後3時15分~4時くらい)、そのまま諦めて1時間分の料金を払い出ていく。20ルピー。


(全然つながらない)

4時20分頃。Nick's Italian Cafeで早めの晩ご飯。オリーブのピザ、スペシャル・スープ、ホット・ジンジャーを注文。スープ美味。豆腐、マッシュルームなんかが入ってる。いやあ、心の芯からあったまるー。


(ホット・ジンジャー)


(オリーブ・ピザ)


(スペシャル・スープ)

食べ終わったあたりから、また雨(ひょう、雪)が厳しくなってきた。ここマクロード・ガンジに来た主目的は、トレッキングをしてヒマラヤ山脈をこの目で見ることなのだが、この調子だと諦めざるを得ないかもしれない。

レストランにチベットかぶれ風でポニーテールの変な日本人がいて、日本語で「2、3日前はこんなに寒くなかった」とのたまっている。まじかよ。

店を出て軽くそこら辺を歩いてみるが、あまりの悪天候に閉まっている店が多い。昨日入ったスノー・ホワイトも空いてない。

ここはインド人よりはチベット系の人の方が目に付く。客引きもほとんどなく、インドの中では比較的安心して歩ける町だろう。

それにしても、よく天気が変わる。基本的には雨みたいな雪みたいなひょうみたいな固い物質が降ってる(当たると痛い)ことが多いんだけど、昼間は1時間くらい晴れてた。

こっちの寒さを甘く見ていた。毛布を兼ねて、マーケットでショールを180ルピーで購入。多少ぼられている(100ルピーくらいでもいいような気がする)が、あまりに空気が冷たく、値切る力が沸いてこない。売店の店員にコリアンかと聞かれる。違うよと言うと、「コリアンみたいに見える」と店員。

ショールを上半身に巻き付け、町の一番下の方にあるチベット寺院へ。何かしら名所に行っておかないと、今日はこのままホテルを替えただけで終わってしまう。

寺院入り口付近には土産物屋があるようだが、すべて閉まっている。寺院に行く前の通りの店も大半は閉まってた。

マニ車を回す。そしてたまたま通りがかったおばさんが回しているので撮影。


(これ重い。倒れてきたら怪我するよ)

寺院の中、入れるのか分からない。しばらく様子を見ても誰も入っていかない。外から中が見えるので、それでよしとするか。


(寺院から町を見る)

ダライ・ラマ氏の公邸に向かってお祈りをしている人を見かける。家の前に張り紙がしてあって、ダライ・ラマ氏と面会を希望する場合の注意事項が書いてある。少なくとも一ヶ月以上前に予約をとれ、等々。

門番がゲートの入り口で不審者が来ないか目を光らせている。


(ダライ・ラマ公邸)


(公邸に向かってお祈りする人)

ホテルに戻ると、俺が戻ってきたのを察知したスタッフ(最初に客引きしてた男)が走って上から降りてきて、「ヒーター要るか?」と聞いてくるので「ほしい。あとジンジャー・ティーよろしく」とついでにルーム・サービスを頼む。

ジンジャー・ティーを持ってきたスタッフに「トリウンド(ヒマラヤを一望できるトレッキング・ポイント)・トレッキングできるかな? 天気悪いよね・・・」と聞くと、「明日ならできると思う」と嬉しい返事。

午前9時に出発して、往復3時間ずつのトレッキングで、ホテルに帰ってくるのが午後5時らしい。ガイド料と昼食代込みで800ルピー。「歩き方」で「500ルピーでツアーを組んでもらいました!」的な投稿を読んでいたので、「えー、高くないかー?」と困惑したような表情を浮かべると、「高くない。ガイドとランチ付きだ」と強調してくる。「まあいいか。じゃ頼む。午前9時に受付に来ればいいんだね」と俺。「そうだ。行く前に朝食を食っていけ」

ジンジャー・ティーが、おいしい。こっちでは俺にとって暖かい食事・飲み物が、お風呂とか暖房とかの役目を果たしている。注文した「small pot」はコップ3杯ぴったり分。きっちり飲み干す。

夜、ホテルマンが部屋にノックするので入れると、「ヒーターのコンセントが枕元にあるから、気を付けてね」とだけ言って戻っていった。妙な優しさに、何だか不思議な気持ちになった。


(靴と靴下を乾かす)

(5/11日目終了)

六日目

午前7時くらいに目が覚める。寝たのが11時くらいだから8時間くらいか。

約束の午前9時になったので受付に行くと、

ホテルマン(昨日の人とは別)「どうした」
俺「トレッキングに行くんだ」
ホテルマン「本当に行くのか? とりあえずテラスで待ってろ」

テラスでは昨日のヨーロッパおばさんと、お仲間みたいな白人が3人くらい朝食を食べてる。俺以外、宿泊客は全員白人みたいだ。

足下が氷結(チューハイじゃないよ)していて滑る。俺も一度危うくスッテンコロリン(死語?)しそうになる。うーむ、外がこの調子ならトレッキングするというレベルじゃねえぞ!

しかし町を見下ろすと、通りでは人が普通に歩いている。何とかなるんじゃないかな。ホテルのスタッフがガイドに連絡をとると、「今はまだ足下が滑るから、出発は10時まで待とう」と言っているらしい。

10時まで、転ばないように柵につかまりながらテラスで景色を楽しむ。足下はともかく、外の天気は素晴らしく晴れている。山々が壮観である。ヒゲを生やした白人男もホテルマンに「どんだけいい立地なんだよ(What the hell of a place you got!)」と称賛している。


(屋上より)

何せ山の天気はよく変わるので、たとえば明日に延期したところで明日が今日よりもトレッキング日和とは限らない。このチャンスを逃したら、もう一生同じ経験はできないかもしれない。だから絶対に行きたいんだ。

10時。ガイドは小柄。たぶん165センチくらいかな。172センチの俺より一回り小さいから。

最初数分間車に乗って、そこから歩き。

雪はもう止んでいるんだけど、場所によっては足下が何十センチも雪が積もっていて、一歩歩く度にザクザクいってかなり神経と脚の筋力を消耗する。足がずぶずぶの氷水漬け状態になるまでそれほど時間はかからなかった。


(光学ズーム3倍)


(すぐ右側が崖)

ガイドさん「あなた日本人でしょ」
俺「分かるんだ? コリアンと言ってくる人もいたよ」
ガイドさん「いや、それは違うね」
俺「何で分かる?」
ガイドさん「商売柄色んな国の人と接するから分かるんだ」

日本人と当てられちょっと嬉しい。

ガイドさん「日本人や韓国人はとてもよい人たちだ。でもあんまりしゃべらないね。たぶんデリーなんかでインド人にだまされて、それでインドの他の場所でも警戒してるんだろう」

それだけじゃないとは思うが、おそらくそれもあるね。

1時間くらい歩くと、休憩所でチャイを出してもらう。雪に覆われたヒマラヤ山脈を見ながら飲むチャイは、スパイスがちょっときな粉みたいな味がして絶妙にうまい。あと水ももらう。


(絶品マサラ・チャイ。これは最初の休憩所でなく昼ご飯をいただいた二か所目の休憩所にて)

もう1時間歩く。登るにつれて雪が深くなっていき、トレッキングの難易度も高くなっていく。ガイドに助けてもらっていなければ、たぶん山を転げ落ちていたと思う。ガイドさんは本当に親切にしてくれた。


(下がダラムシャーラーの町らしい)


(片道2時間でもきつかったのは俺の体力のなさと、この足元環境)

とにかくヒマラヤ山脈の景色は美しくて、間違いなく今回の旅のハイライトの一つだったよ。たとえば富士山は富士山で美しいんだろうけど、こっちは規模が違うというか、たくさんあるからね。こんな山々に比べて、俺が普段やってることや気にしてることなんてなんてちっちゃいんだろう、なんて27歳とは思えないようなことをちょっと思ってしまった。


(これが一番よく撮れた)


(雲で奥の高い山がてっぺんしか見えない。てっぺんも数十秒毎に雲で隠れる)



昼飯は、ベジタリアンのカレーと米を出してくれた。スプーンを用意してくれているが、手で食べる。相変わらずパラグアイ(腹具合)が悪く食欲はないのだが、おいしくいただく。近くのチョロチョロしか出ない水道で手を洗っても手が黄色いままだ。


(食事を待ってたら犬が来て靴を舐めてきた)


(手で食べるのに抵抗がなくなってきた)

食べ終わって、ガイドさんに「手で食べた」というと「よくやった」とほめられる。

食事をすると、身体に力がみなぎってきた。さっきまで脚がふらつき気味で倒れそうな場面もあったのだが、明らかにさっきより元気。そういや朝飯食ってなかったな。

結局、天気が悪くて危険ということで、最後(本来の終着点)まで行けなかった。それでも十分、貴重な風景を心に刻むことができた。長さも、俺の消耗度合いを考えるとちょうどよかったかもしれない。


(旗に混じって洗濯物も)


(途中何十分か犬が付いてきた)


(ここら辺は雪が浅くて歩くのは比較的楽だった)


(ゴミにたかる猿)

ガイドと握手をして別れると、午後3時。まったくチップを要求してこなかったことに感動。インドって広いんだな。

マクロード・ガンジは俺が知ってる他のインドの町に比べて人がいいし、いい景色、いいレストランがあるし、物価も安い。観光名所を回るというよりは、滞在するのが快適な町だと思う。今回は天気が残念だったけど、もっと暖かくて晴れてる時期だったらとてもお勧めできる場所。

さっきのガイドさんに「トレッキングのベスト・シーズンはいつだ」と聞いたら、たしか5月や6月が一番と言っていた気がする。

ネカフェに入る。今度はネットが気持ちよくつながる。いくつかサイトを巡回した後、ツイッターに旅行記を投稿。友人からツイッター経由で、モーニング娘。の道重さゆみさんがGREEでブログを始めたことを知らされる。そんなどうでもいいことをわざわざインドにいる俺に伝えるなよなまったくー、と呆れつつ、即効でGREEにログインしさゆと友達になった。(続く)