2010年8月2日月曜日

ソウル見聞録 (2)(2003年3月4日執筆)

ホテル外を歩く

ジャージに着替えて外に出る。言い忘れたが、冬の韓国の気温は日本より低い。旅行前にヤフーの旅行情報ペイジで調べていたのだが、確か今日は最高が6度、最低が0度。ただ先ほどまで一緒だったガイドさんによると、最も寒い時にはこんなものではないらしい。まあそれでも結構な寒さなわけで、ジャージ1枚で出たのは失敗だった。

適当に、ぶらりとホテル周囲を散策してみる。コンビニがある。しかも日本のコンビニだ。店名の所がハングルになっているが、明らかにこれはセブン・イレブンだ。ファミリーマートもある。探すまでもないくらい、焼肉屋が林立している。宿舎からの客を狙っているのか、食い物屋が多い。安全上の理由から、あまり裏道に深入りするのは止めておいた。


(ファミリーマート)

外の冷気に身をさらしていると、だいぶ気持ち悪さが解消されてきた。30分ほど前には飯を食うなどもっての他、「行くなら俺を置いて2人で行ってくれ」と言っていたが、何とか「食うんなら付き合ってもいいよ」と言えるくらいには復調してきた。

食欲旺盛なYの推進により、結局、今夜は夕食を食べることにした。やはり、南朝鮮に来たからには焼肉がいい。ホテルの向かい側の店を指差し、「あそこにしよう」とY。

「え、あれって床屋じゃないの?」とF。眼鏡を装着していないため、よく見えないという。私もそんなに目がいいわけではないが、床屋でないことは分かる。

確認しようと横断歩道を渡る。渡り始めるや否や、信号が点滅し始める。焦る。信号が変わるのが早い。渡り切るか切らないくらいで赤になってしまう。

やはり焼肉屋のようだ。だが言葉ができない。「あれ」が必要だ。というわけで、一旦ホテルに戻り、Yが日本で買った「食べる指差し会話帳」(浜井幸子、情報センター出版局)を取る。それを手に、焼肉屋に入る。

夕食

軽い緊張感を味わいながら、靴を脱いで中に進む。入口付近の席に座ると、店員さんが何やら言ってくる。もちろん朝鮮語で。身振りから判断するにどうやら、その席は寒いよ、だからあっちに座ったらいいんじゃない、と言っているようだ。席を移ったら彼は何も言わなくなったので、その推測は正しかった。


(焼肉屋っぽいのでここに入る)


韓国には環境への配慮上、割り箸がないらしい。実際、目の前には、細身の金属箸が置いてある。日本で使っているものよりも重量感がある。

さて、注文だが、壁を見るとメニューが書いてある。しかし、全てハングル文字で、勉強不足の我々にはチンプンカンプン。さっきの男性の店員さんが注文を取りに来る。ここら辺で、私達が韓国人でないことに気付いたようだ。

Yが「指差し会話帳」の焼肉のページを開いて見せ、「カルビ」を指差す。しかし反応がどうもおかしい。それはないよ、という感じで手を振るのだ。そして、「あれでいいだろ」という風に壁のハングルを指差した。Yが適当に頷くと彼は引き返した。

期待に不安が3割くらい入り混じった気持ちで待っていると、女性の店員さんが机に、ドカンと豪快に大量の野菜を置いた。鉄板の両側に一皿ずつ。圧倒的な量である。そして次々に、キムチや、タレらしきものがテイブルに乗せられていく。こっちの焼肉屋では、肉を頼んだだけで付け合わせが色々と付いてくると韓国語の本で読んでいたが、ここまで来るとは。

半ば呆気に取られていると、肉が届いた。会話帳と壁のハングルを照合すると、一つの献立が一致した。どうやらこれは「豚肉のハラミ」だ。そう言えば、豚肉だけの焼肉屋もあると読んだ記憶がある。この肉は正確には「3枚肉」というらしい。脂と肉が地層のように、段々になっている。脂身が肉の半分以上を占めている。





(肉を頼むと膨大な量の野菜と付け合わせが付いてきた。四枚中三、四枚目が2010年8月2日追加画像)

店員さんが、肉を焼いてくれた。皿に盛られた豚肉の半分ほどを、盛り上がった形の鉄板に並べていく。よく焼けてくると、丁寧に、1枚1枚、裏返してくれる。豚肉なので、焦げ目がつくまで焼いている。

いい具合に焼けてきて、そろそろ食っていいのか、とうずうずしてきているところにまた店員さんが来た。野菜の中から葉っぱを1枚取って、肉にタレをつけて包んで食べるんだと教えてくれた。そう、韓国では焼肉を野菜で包んで食べる。それは予備知識として持っている。




(店員さんが焼いてくれる。三枚中二、三枚目が2010年8月2日追加画像)

さらに、指差し会話帳をパラパラめくり、「包む」という単語を見つけ、それを指差してくれた。素晴らしく親切な人だ。

それにしても、皿に盛られている葉っぱの種類が実に多種多様である。「何の草だ」と言いたくなるような奇抜な葉っぱまである。タレは二種類で、赤味噌のようなものと、油のようなものがある。

言われたように肉にタレを付け、葉っぱで巻いて食べる。時折、ガリッと脂身の歯応えを感じる。だが、野菜で巻いているので脂っこさを感じない。私は脂身はやや苦手な方だが、全く抵抗を感じないで食べていける。今まで体験したことのない美味しさだ。

付け合せのキムチを食ってみると、これも凄まじくうまい。日本で食べるキムチとは比較にならない。白菜がしゃきっとしている。そして、単に辛いだけでなく、味付けが複雑。

途中でまた店員さんが来て、「あれが欲しいでしょ」という感じで何か言っている。Yが隣の机の、ビビンバのようなものを指差してみると、合点した様子で引き返した。しばらくして運ばれてきたのはご飯。そして卵スープ。あと、ビビンバかと思った物の正体は卵焼きだった。

最初の半分くらいは店員さんが焼いてくれたが、後半は自分たちで焼いた。

席を立ち、会計。3人で24000ウォン。即ち、1人8000ウォン。つまり、これだけ食って、1人約800円。肉が700円、そしておそらくご飯、卵スープと卵焼きで100円。感動を覚えた。質、量、店員さんの親切さ、そして値段。全てを総合して、この食事は10点満点である。野菜をあれだけ食べたので栄養バランスもいいはず。こんなに充実した食事は長い間経験していなかった。幸せを感じた。

コンビニ

感動的な食事だった。あれで800円とは。余韻を噛み締めつつ、ふらっと近くのセブン・イレブン、ファミリーマートに立ち寄る。

店内の放送、店員の様子など、中の雰囲気は日本国内のそれぞれのコンビニと大差ない。

本、雑誌の売り場を見てみるが、大半の本はそもそも何の本なのか分からない。雑誌は表紙が派手なのでまだ分かる。女性向けファッション雑誌らしきもの、ニューズウィークの海賊版のような、あからさまにデザインを盗用した時事雑誌、他にはハングル版のリーダーズ・ダイジェストもある。

お菓子の棚を観察する。キシリトールのレモン味にリンゴ味、高麗人参ガム、パックンチョやおっとっととの朝鮮版対応物とおぼしきスナック菓子、雪見大福の韓国版(よもぎ味か)など、次から次へと面白い商品が出てくる。値段も全体的に安い。例えば高麗人参ガムは300ウォンだ。


(コンビニに陳列されている雑誌)

飲み物の保冷庫も同様に興味深い。「SPORTSRADE」とかいう、明らかに「GATORADE」をパクった、色鮮やかなスポーツ飲料、米を原料にしたという得体の知れない飲み物。あとミネラルウォーターが数種ある。韓国では水道の水を飲めない。

ホテルに戻り、改めて我々が購入した商品群を満足気に眺める私。それらが醸し出す異国情緒がたまらない。



(コンビニで購入)

テレビ

テレビを付けてみると、当然ながら、容赦ない朝鮮語の嵐。チャネルが幾十もある。その一つで寸劇がやっているが、男か女か分からない出演者がいる。判別する前に劇は終ってしまった。

韓国語のシャワーを浴びた後、我々はお湯のシャワーを浴びて寝る体勢に入った。明日は8時に起きることにした。私が携帯のアラームを合わせた。

ところで、ハングルは読めない私達だが、一応、少しは朝鮮語を勉強してきているか、何らかの対策は練ってきている。Yは前述の「指差し会話帳」を持参してきたし、私は「韓国語は3秒で話せ!」(チョン・ヒョン、小石淑夫共著、中経出版)という参考書を買い、重要フレーズをいくつか覚えている。

例えば、いくらなんでも当地の言語で「はい」や「いいえ」すら言えない状態で、その国にのこのこ入っていくわけにはいかない。はいは「ネー」、いいえは「アニョ」。他にはあいさつが「アンニョンハシムニカ」、ありがとうが「カムサハムニダ」、お疲れ様が「スゴハセヨ」など、私は多少なりとも言葉を覚えてきた。

YやFはそれすらして来なかったことが成田への電車で発覚し、私は驚愕したのだが、Yは反省を見せ、それから多少は覚えた。Fはどうか。本人は覚えたと言うが怪しいので私は聞いてみた。「じゃあ、『はい』は何て言うんだっけ?」

「ヌー」。――この男は何かを学んだ形跡がない。(1日目、終了)

朝鮮で迎える初めての朝

私が目を開けると、携帯のアラームは既に10分近く鳴り続けていた。誰かが率先して起きてもよさそうなものだが、左右を見ても(私は真ん中のベッドで寝ている)誰もその気配を見せない。特にYは、一度起きかけながら再び眠りに付くという居直りを見せる。だがそのまま寝ているのは限りなく非生産的。さすがに数分もたつと皆起き出した。

しかし、この暑さはどうにかならないのか。もちろん、外のことではない。部屋の暖房がかなりきついのである。昨晩は28度に設定されていた。切ってもなぜか暑い。そのせいもあって今ひとつ眠りが浅かったような気がする。

着替えなどを済ませ、ホテルを出る。コンビニで飲料を購入し、3、4分のところにある江辺(カンピョン)駅に歩く。外では吐く息が白い。歩行者には、軍服姿の人たちが目立つ。

切符は日本と同じように、自販機で買う。違いは第一に、札が使えない。紙幣を使う場合は窓口に行かなければならない。第二に、値段が二種類しかない。そして安い。600ウォンと700ウォン。

まず600と700のいずれかのボタンを押し、それから金を入れる仕組み。最初ボタンを押してから、数秒間コインを入れないと、取り消されてしまう。この間合いがなかなかせっかちである。



(切符自販機と切符)

(自分で回す)

600ウォンの切符を手に入れ、改札を通る。改札は回転式である。即ち、チケットを入れてから自分で回すのだ。ホテルの入口のドアの一つも回転式だった。「デズニーランドみたいだ」とF。

階段を上がり、プラットフォームへ。数分後、電車が来た。今日は国立民族博物館とやらに行くらしい。(まだまだ続く)

(2003年3月4日、午前0時33分)


(プラットフォームにて。予備校の宣伝)