足を洗い、階段を下りると、お目当ての建造物が姿を現す。実のところ、建物の上の方は外からも見えていたのだが、四方を壁に囲まれていて、一段低い場所にあるので全容は中に入らないと見えない。
昼間も金色は金色なんだけど、夜は照明に照らされて正真正銘の金ピカ。荘厳で本当に美しい。見とれてしまう。
スピーカーからずっと、お経みたいな音楽が鳴っている。来てる人はみんな土下座して寺院に向かって拝んでいる。
(独特の雰囲気は言葉では表現しづらい)
周りを一周して一通りの角度から写真を撮りまくる。いい被写体に巡り会ったときは、なるべくたくさん写真を撮っておくのが肝要だ。なぜなら、その場ではうまく撮れたと思っても後から見るとぶれてたり斜めってたりして後からがっくりすることがあるからだ。夜ならなおさらぶれやすいので念を入れる必要がある。
(以上が最もよく撮れた三枚。案の定ぶれてる写真もあった)
あ、ちなみにここに入るには頭に布を巻かないといけない。入り口に黄色い布がたくさん置いてあって、自由に使わせてもらえる。
橋を渡って寺院の中に入る。スィク教は他の宗教にも寛容らしく、最低限の決まり(頭を布で覆っている等)を守れば宗教問わず聖なる寺院の中にも入れてもらえる。ただし内部は当然撮影不可。一応、橋の前にいるスタッフに確認をとる。俺の頭のバンダナがずれてるらしく、直してくれる。
(ここ以降は撮影禁止)
中は人でギューギュー詰めになっていて、みんな順番がくると土下座して中にいる人たちに向かって必死で拝んでいる。
何というか、きつい。外から見る分にはきれいだけど中に入ったときの雰囲気が、威圧されるというか・・・。拒否反応じゃないけど、あまりに自分が場違いで、見たこともない世界が広がっていて疲れるというか・・・。
拝むわけにもいかず、そのまま何となくポジションを出口にずらしてお茶を濁しつつその空間を後にする。
とにかく日本では聴かない音、見ない光景が織りなす宗教の世界に圧倒されっぱなし。
精神的に、疲れた。
明日はとにかくこの町を出よう。(3/11日目、終了)
四日目
「地球の歩き方」を見てると、「インド独立運動中に起こった最大の悲劇」(「地球の歩き方」'09-'10版、302ページ)である「アムリトサルの大虐殺」が起きた現場であるジャリアーンクーラー庭園というのが近くにあるみたいなので、最後にそこだけ見ておきたい。
午前8時。
俺「ダラムシャーラーに行く一番いい方法は何だ?」
受付(彫刻顔ではない人)「タクシーだ。俺らが2500ルピーでアレンジできるよ」
俺「(高っ・・・!)なるほど。ありがとう」
よく考えると、ここからバスで計8時間くらいなのでタクシーで2500ルピー(5000円)というのは決して高くないのかもしれない。ただ、金銭感覚がインド人寄りになっていて、1000ルピーを超える出費なんてもったいなくてできないと思っていた。
ホテルを出て、その辺のリクシャをつかまえてジャリアーンクーラー庭園まで行ってもらう。20ルピー。すぐだった。距離的には歩けた。
(ホテル前の通り)
要は過去に悲劇があった現場を残してあるわけで、商業的な観光施設という感じではない(入場もタダ)。
俺は歴史に無知で(高校のとき、世界史で赤点をとったことがある)「地球の歩き方」の解説を読んで「へえ~」と思う程度。
(慰霊碑)
そんな俺でも声を上げてしまったのが、銃弾が撃ち込まれた跡が生々しく残る小屋。
(白く囲ってあるのが銃弾の跡。画像処理ではなく実物に白いマークがある)
庭園を出ると、リクシャ運転手が3、4人たまってる。例によって「どうしたどうしたこれからどうする」攻撃に合う。「これからダラムシャーラーに行くのだが、どうやって行けばいい? バスとか電車の情報を調べたいんだけどどこに行けばいい?」と聞く。
一人、長身の運転手が「俺が案内する」と半ば強引に俺を引っ張って自分のリクシャに乗せようとする。
俺「ちょっと待って。いくらだ?」
運転手「100ルピー」
高い高いとごねまくって、何とか80ルピーまで落とした。
まず旅行会社で止まる。俺を置いて、運転手が自分で聞きに行ってくれる。
出てきた運転手「今聞いてきたが電車はないらしい。行くならバスだぞ」
俺「OK。じゃ、バス・ターミナルに行ってくれないか」
バス・ターミナル。さっき80ルピーまで値切ったが、100ルピーを渡して運転手と別れる。
値切っておいて、それよりちょっと多く払う。この手はよく使う。お互い気持ちいいからね。とは言っても距離を考えると100ルピーはぼったくり気味だけどね。まあいいよ。
ターミナルのスタッフに聞いて回って、ダラムシャーラーに行くバスを突き止める。ダラムシャーラー行きは、一日に2便しかなくて、今からかなり時間が空くらしい。しかし、「歩き方」には一旦パタンコートというところで乗り換える方法もあり、そっちだと便数が多いようなことが書いてあった。
「一度パタンコートに行って、そこでバスを乗り換えるんだ」というと、「そうか」と言って、パタンコート行きのバスの乗り場を教えてくれる。
びっくりするのが、運転手らしき人がバスの前で客引きをしてて、そのうちの一人は「俺のに乗ってけ」と俺の腕を引っ張って乗せようとするんだ。いやいや、移動って目的地ありきなわけで、そういうもんじゃないでしょ。
これで次の町への移動方法が分かったので、後はホテルに戻り、チェックアウトし荷物を持ってまたここに来る。
(こんなんに乗るのかよ)
リクシャをつかまえホテルに戻り、チェックアウト。アムリトサルには24時間も滞在してないんだけど、別に未練はない。日中の黄金寺院も見てみたいという気はあるが、天気悪いし(雨がぱらついている)昨日で十分堪能したのでいいや。
ちなみにチェックアウトだが、課金の単位(一泊の数え方)がホテルによってチェックインしてから24時間以内の場合と、翌日の正午までの二通りがある。このCJ Internationalは後者。
受付「タクシーはいいのか?」
俺「ああ、いいよ」
受付「バスを使うつもりか?」
俺「バス」
受付「長旅になるぞ」
意地でも移動ごときに2500ルピーなんて使うもんか。ホテルのタクシーなんていうぜいたくをする気はさらさらない。勝つまでは。
バス。
午前10時アムリトサル発。午後1時パタンコート着。65ルピー。
午後2時パタンコート発。午後6時ダラムシャーラー着。75ルピー。
パタンコートのバス内で、ベビースター・ラーメンみたいなのに生野菜(玉ねぎ、トマト等)、香草を混ぜて塩をかけライムを絞ったスナックを購入。まじでうまい。一緒に買った米パフをキャラメルで固めたみたいなのはいまいち。
(左のがうまいんですよ)
(「バーガー」と称して売っていたもの。肉は入っていない。たしか20ルピー)
パタンコートからダラムシャーラーへのバス内で尿意がピークに達し、かなりナーバスな時間帯を過ごした。ダラムシャーラーに到着するや否や、後ろにいたスウェーデン人女子2人組との会話を断ち切り、一人トイレを探した。
タクシー。
午後6時ダラムシャーラー発。午後6時半マクロード・ガンジ着。130ルピー。
(ダラムシャーラーのバス乗り場)
ダラムシャーラーにて。
タクシー「ヘイ、タクシーに乗らないか?」
俺「いくらだ?」
タクシー「どこまで行くんだ?」
というやり取りには後から自分で笑ってしまった。たしかに行き先も言わずに「いくら」って言われても困るよな。
アムリトサルからタクシー一本で行っていれば2500ルピーだったところ、合計270ルピーで移動。
さらっと書きよーけど、かなり苦痛だったとぉ(福岡弁風?)。
座席は日本の感覚で2人、西洋の感覚で1人分のところに3人詰める。いちいち汚い。掃除とかメンテナンスの感覚がないんだな。
現地人と身体密着。バックパッカーの俺はでかいリュックを膝の上に置く。足は折り畳んで収納ギリギリ、優雅に伸ばすなど夢のまた夢。
一回隣の人に現地語で話しかけられて、「ごめん分からない」と英語でいうと、「何だ外国人(foreigner)か」と言われた。その人は英語使いではないらしく俺との会話は諦めてた。というか俺、インド人に見えたのかよ。
前の座席にひざを当てていたのだが、履いているユニクロのスウェット・パンツを見ると、ひざに訳の分からない物質が付着している。座席の汚れだ。何か、変な物質。よく分からない。顔をしかめつつ、こびりついたそれを手で落とす。ちょっとシミが残っている。
明らかにタクシーを使った方が快適だったのは間違いない。でも、現地の人たちに混じって現地の交通手段で移動したことによってこそ感じることもあるわけで、この経験は忘れないよ。
ちなみにホテルのトイレとかもそうだけど、安宿のトイレって、場所によっては日本の公衆便所並でしょ。日本の感覚で「きれいな」ホテルに泊まりたければ、1万円(5000ルピー)くらいは出さないといけないな。
あと熱いシャワー(ホット・シャワー)の希少さにも参る。CJ Internationalは、表向きはホット・シャワーが出ることになってたけど、冷たかった。チョビチョビしか出ないし。でもこれ、上品ぶった受付を備える中級ホテルでも普通。
「地球の歩き方」のホテル情報にはよく「きれい」とか「ホット・シャワーが出る」なんて載ってるけど、かなり強いバイアスを持って情報に接しないと、表現と現実の落差にがっくり来るかもよ。インドに行くときは、しばらく日本で馴染んだ熱くて勢いのあるシャワーや、極度に衛生的な生活をしばらく捨てる覚悟が必要だ。正直俺はそういうところが苦手。
話を戻すと、ホテル受付に忠告された通りの「長旅」を経て何とかマクロード・ガンジに到着したわけだ。ちなみにマクロード・ガンジってのは、ダラムシャーラーという町から高度を上げたところにある。高度2000メートルくらい。「歩き方」には「ダラムシャーラー(マクロード・ガンジ)」と記載されているから、ダラムシャーラーの一部分のはず。
「地球の歩き方」で「マトン・モモが絶品」と書かれていたスノー・ホワイトという店(ホテルを併設)に入り、マトン・モモを頼もうとするが、メニューにない。
俺「すみません、ベジタリアン・メニューしかないの?」
スタッフ「そうだ」
俺「このガイドブックに、マトン・モモがおいしいって書いてあるんだけど」
スタッフ「ベジタリアン・レストランに変更したんだよ。そのガイドブック古いんじゃ?」
俺「(表紙を見せながら)いや、最新版だよ」
スタッフ「あれま、ほんとだ。実は7、8ヶ月前にメニューを変えたばかりだから、更新が追いついてないのかもね」
仕方なく、スープ入りの野菜モモ(50ルピー)と、マサラ・ティー(20か30ルピー)を注文。
(マサラ・ティー)
(スープ入り野菜モモ)
モモっていうのはチベット料理で餃子みたいなもの。
想像つかないかもしれないが、ここはインド北部だし高地なので、かなり寒い。Tシャツにトレーナーにユニクロのフリースにパーカーという、おすぎ氏に指摘されるまでもなくファッション的に滅茶苦茶な合わせをしても十分に暖まることができない。事前に見ていた天気予報では、最低気温は氷点下っぽい。しかし、荷物を多くしたくないのでそんなに防寒具を持参していないのだ。
だからとにかく、身体に温かいものを入れたい。
モモは、スープの味が薄くて、肉もないので超あっさりしている。とても優しい味。俺は基本的に強い味、濃い味が好き。テーブルに置いてある塩を振ろうかと思ったが、これはこれでいいかと自重。
ホットな食べ物をいただき、精神的にもだいぶほっとしてきた(ホットだけに)。
とても居心地のよいレストランだ。
いつもいつも精神的に参っているようで申し訳ないが、長旅の疲れやストレス、それを愚痴る相手もいないという孤独、そして温かくて優しい味付けの料理にありつけた安心感が相まって、何だか感慨に浸ってしまう。
普段当たり前と思っていることのありがたみを、しみじみと実感する。日本では熱いシャワーが好きなだけ浴びられたり、色んなおいしい料理を楽しめたり、便利なことやものがたくさんある。
それらを享受できることは、当たり前のことではない。世界の中でも進んだ国で平和に暮らせることは、自分の親やその親、色んな先人たちが一生懸命創意工夫をこらしてきて初めて成立し、維持できることで、本当にありがたい。
自分は日本という国を引き続き豊かで世界に自慢できる国にするために、何ができるのだろうか・・・。
レストランでそういった思いをノートに書いているうちに、涙が溢れて止まらなくなった。
ほお杖をついた手で目元を隠し、周りに見えないように努める。
今回の旅行が一人旅で本当によかったと思うのが、何かを感じたり考えたりしてもそれをぶつける相手が自分しかいないため、自ずと内省的な時間が山ほどできることだ。
俺にとって旅行で大事なのはどこへ行ったか、何カ所回ったかではない。何を感じ、経験し、学び、それが自分の思考と行動をどう変えるか。それが重要だ。その意味じゃ一人旅だと自分自身と向き合わざるを得ないので、有益な時間を過ごせる。
マサラ・ティーをもう一杯頼み、身体温め計画をさらに進行させる。
外は強い雨が降りしきり、ゴロゴロと雷も鳴り、嵐のようになっている。しかも寒いと来たもんだ。
しかし、天気は悪いが町自体は、何か肌に合いそうな感じがする。ちょっと長めに滞在したい気がする。これ以上ガツガツ移動するのは疲れるわ。(続く)