2010年6月20日日曜日

2010年2月5~15日インド旅行記 (10)

地図で大体の位置を確認し、いざ紅茶屋Premierへ。

1分くらい歩くと、地元民が声をかけてくる。

地元民「こんにちは」
俺「こんにちは」
地元民「ここはPブロックだ(コンノート・プレイスは区域ごとにアルファベットが付けられている)」
俺「うん」
地元民「どうした、どこに行きたいんだ」

まともそうな人なので、「歩き方」の地図を見せて「ここに行きたいんだ」と伝える。

俺「紅茶屋のPremierに行きたいんだ」
地元民「おー、Premierか。あそこはいいぞ」
俺「知ってるんだ?」
地元民「俺もたまに買いに行く店だ。案内するから付いてこい」
俺「いいのか?」
地元民「ちょうど俺も通り道だからさ。俺、さっきマクドナルドで昼ご飯食べてて、これから家に戻るところなんだ」

道すがら、地元の人に3000ドル出せと脅された話をしてみると、彼は信じられないとばかりに顔をしかめて横に振る。

地元民「いくら裕福な国の人でも、何千ドルも稼ぐにはハード・ワークが必要なんだ。そんな金をポンと出すわけがない。彼ら(詐欺師たち)は教育を受けてないからそれを理解する頭がないんだ。豊かな国の人に金を出せと言えば簡単にお金をくれると思ってるんだ」
俺「そうだそうだ!」

いかれ気味の国で稀に聞く正論に興奮していると、店に到着。案内してくれた地元民に感謝を伝え、握手を交わし別れる。チップはもちろん要求してこない。

店に入った途端、店員ががっつき気味に接客してくる。

店員「どこから来た?」
俺「日本」
店員「いくつ欲しいんだ?」

まだ何があるかも見てねえだろボケ。「何」があるかも見てないうちに「いくつ」かを決めさせようとする。インドでよく遭遇する営業方式である。

「えー、分からないなあ。見てみないと」と適当にはぐらかす。

いくつ買うかをなかなか明確に宣言しない俺にしびれを切らす店員を尻目に色々試飲させてもらう。定番のマサラ・チャイはもちろん、アイス・マンゴー・チャイ、アイス・チョコ・チャイなんかを試す。

するとこれがね。びっくりするくらいエレガントで、疲れや体調不良を忘れさせてくれるくらいおいしい。

マサラ・チャイというと、牛乳と砂糖たっぷりで甘いのが普通だが、この店で試飲させてもらったそれはストレート。

俺「うわ、これはおいしい。でも、普通、牛乳と砂糖を入れるよね?」
店員「ふふふ、それは牛乳と砂糖で味をごまかしているんだよ。俺らのマサラ・チャイはリアルだから、何も入れなくてもおいしいんだ」

あんまり買うつもりはなかったんだけど、結局色々買ってしまった。

マサラ・チャイ、マンゴー・チャイ、チョコ・チャイをそれぞれ2缶ずつ(@495ルピー)、50パック詰め合わせ(1600ルピー)、高級ホワイト・ダージリン茶100グラム(4000ルピーくらいだったか)。

50パック詰め合わせは、職場のばらまき土産にちょうどいいやと思って購入。最初は5種類のお茶が10袋ずつ入ってたんだけど、10種類を5袋に変えてくれとお願いして、俺が指定した味に詰め替えてもらった。こういうところの融通が聞くのが、インド人商人の面白いところ。現代の日本人の多くは簡単に断ってしまいそう。

最初は、他にもいくつかの店を回って少しずつお土産を買おうと思っていたのだが、Premierで試飲させてもらった紅茶は、ここでお土産を全部買ってしまおうと思わせるおいしさだった。

途中で日本語がとても堪能な店長が出てきて会話。ダージリン茶は最初買うつもりがなかったんだが、この親父の巧妙な話術に乗せられて買ってしまった。何でも、これ以上はないというくらいの素晴らしい紅茶らしい。日本で同じ物を銀座に卸しているらしいが、20グラムで9000円するらしい。親に飲ませてあげたい。

店長「お仕事で来られたんですか?」
俺「いや、違います。旅行です」
店長「旅行?? なんでインドなんかに旅行しに来るんですか?」
俺「ハハハ。まあ、色々あって面白いですからね。今回も、メイン・バザールでインド人3人に脅されたんですよ。一人1000ドル、三人に3000ドル払えって」
店長「うわあ・・・」
俺「で、最終的には一人200ルピー、三人で600ルピーを払ったんです」
店長「え? 3000ドルを、600ルピーに? それはすごいですね(笑)」
俺「ええ。Negotiation(交渉)ですよ(笑)」
店長「怖かったでしょう」
俺「そうですね。でもいい経験でしたよ」
店長「まあ、それはそうですね。次そういうことがあったら、すぐに警察と日本大使館に電話した方がいいですよ。メイン・バザールは私も怖いですよ」
俺「え、インド人でも怖いんですか?」
店長「怖いですよ」

客の大半は日本人らしい。実際、俺が買い物をしている間も、他に日本人が2人入ってきた。

会計を済ませ帰ろうとすると、店員の一人が近づいてきて「姉妹店の土産屋があるから寄って行け」と言ってくる。

「スタイルがいい」「モデルでもやればいいのに」等と周りにはやしたてられて勘違いしたのか自分のことを「瑛太似」とツイッターの自己紹介で書き始めた厚顔無恥さで知られる同期のS君に頼まれていた赤ネクタイをまだ獲得できていないので、それを探すことにするか。

リクシャで数分のところにその店はあった。だが店員に聞くとネクタイはないとのこと。仕方ないので赤いスカーフを一枚買って、「それだけでいいのか? 他に色々あるから見ていけ」という店員を冷徹に振り払い店を出る。400ルピー(約800円)。ちなみに帰国してからS君に2000円で売った。これはスカーフ代という変動費だけを見ればぼろ儲けだが、飛行機代等の固定費やインド旅行の精神的・肉体的負担を考えると大赤字だ。だからむしろ安すぎるくらいだ。

さっきの店員が店の外で待機していて、そのままリクシャでホテルまで送ってくれた。無料で。

紅茶を部屋のカバンに詰め、しっかりと鍵をかける。

次なるミッションは、タンドリー・チキン発祥の店、モーティ・マハルでタンドリー・チキンを食すことだ。いまだに腹痛は完治しておらず、食欲はそんなに沸かないんだけど、そんなことは言ってられないんだよ。これが最初で最後の機会かもしれないんだぜ。

ホテル・アルカを出て10秒くらいすると例によって「どうしたどうした、どこに行く」と話しかけられる。話を聞くとリクシャ運転手らしくちょうどいいので、地図を見せてモーティ・マハルに行きたいと告げる。

往復300ルピーで合意するが、モーティ・マハルに到着し駐車場がないことを知るや否や、「駐車場がないから俺は帰る。帰りは自力でリクシャを拾え。そして俺には200ルピー払え。帰りのリクシャには100ルピー以上は払うなよ」と、図々しいにもほどがある台詞を吐き、俺から200ルピーをせしめる。揉めて150ルピーに落としてもよかったけど、こんなんで揉めたくないわ。

念願のモーティ・マハルに入ると、午後4時という時間のせいかだだっ広い空間には先客が一組だけ。黒髪アジア人の男女だ。フォークとスプーンで食ってやがる。初心者どもが。俺は指で、しかも左利きだがちゃんと右手で食うからな。

タンドリー・チキン(ハーフ)と、スウィート・ラッシー、ガーリック・ナン、バター・チキン(ハーフ)を注文。


(遂に念願の、元祖タンドリー・チキン)


(ナン拡大)

ちなみにタンドリー・チキンのハーフっていうのは、鶏一羽の半分という意味だ。

とても小粒なタマネギ(?)の漬け物、日本でいうらっきょうみたいな感じのが付け合わせで付いてきた。

バター・チキンのどこまでも濃厚で豊かな味わいがガーリック・ナンのもっちりした食感と口の中で織りなすハーモニーは、幸せを感じさせるほどだった。

タンドリー・チキンも肉がバリバリしていてとてもおいしかったが、初日にメイン・バザールのグリーン・チリで田中さんと食べたタンドリー・チキンの方が感動は強かった。

注文した量としては、二人で食べてちょうどいいくらいだったと思う。あまりにお腹がいっぱいで、残してしまった。

店員さんのおじさんたちは、伝統あるレストランのスタッフという自負があるためか、すました感じでおごそかに接客してるんだけど、そのせいかちょっと傲慢な印象を受けた。そして、正直、店の居心地はあまりよくなかった。

会計をお願いすると、伝票を持参した店員が俺の耳元で何かをささやく。何だと聞き返すと、その店員は伝票に載っている価格(690ルピー)を俺に見せながら、やたらと神妙な顔つきでこう強調する。

「ココロヅケ、セパレート」

要は、ここに書いてある金額と、心付け(チップ)は別だぞ、ってこと。しばらく開いた口がふさがらない。堂々とチップをせがむことは序の口としても、こんなところだけ日本語の単語を織り交ぜている点。そして、それが日本人でもそんなに使わない婉曲的な言い回しである点。

正直、軽くいらっと来た。あんまり払いたくなかったが、細かい札がなかったので800ルピーを「ココロヅケ、included(含まれている)」と言って渡す。店員は満足げな表情でうなずいて去って行った。


(立派な店構え)

やれやれ、ちゃんとしたレストランでもこんなことが起きるとは、こんなところがインドらしいな、と感慨に浸りつつ、道は車とリクシャ、それを挟む通りは人でごった返すごちゃごちゃな街を歩き、リクシャを捕まえようと試みる。


(モーティ・マハルはこんな中にポツンとある)

しかし、予想外に苦戦する。第一に、ほとんどのリクシャは人が乗っている。第二に、たまに空車をつかまえても、「コンノート・プレイス」と言うと首を振るのだ。どうやら、自分の担当区域があり、そこを出たくないようだ。

3、4人の運転手に拒絶されて若干へこんでいると、向こうからリクシャがクラクションを鳴らしながら寄ってくる。「コンノート・プレイスのPブロック」というと今度はOKしてくれた。料金も、70ルピーと安いので(あの行きの運転手は何だったんだ)」交渉なしで即決。

折り際、「お前はいいやつだから100ルピー払うよ」と言って100ルピー札を渡すと嬉しそうに「ありがとう」と微笑む運転手。

しかし、降りたはいいものの、指定していたのとは若干違う場所に着いていることに気付く。

地元の人に聞きながらPブロックを目指す。英語が通じない人もいたが、一人、英語だけでなく日本語まで通じる男がいる。話を聞いていると、本当か分からないが俺が今日買い物をした紅茶屋Premierで働いているらしい。今日は彼は休みらしい。

俺としては道案内をしてもらいたかっただけなのだが、話の展開上、なぜかチャイ屋に行って一杯やろうというお誘いを受けたので了承。

2日目にダラムシャーラー出身の彼に連れてきてもらったのと同じ、小汚いチャイ屋だ。どうやらチャイ一杯が5ルピーらしい。

今回も、また友達が合流するという黄金パターンだ。これからの行動予定を聞かれ、色々と助言をしてくれるというのもまたインド人の黄金パターンだ。

Premier店員(?)「明日はタクシーでデリー観光をしてもらえばいい。で、荷物はタクシーの中に入れておいて、そのまま空港に行けばいい」
俺「いや、ちょっと分からないな。明日にならないと。というのもインド人の友達と待ち合わせをしているもんだから」
Premier店員(?)「じゃあその友達との用事が終わったら会おう」
俺「うん。でもちょっと分からないんだ。いつその友達と別れるかが」

俺はツアーは申し込まないと言っているのだが、とりあえず話だけでも聞いておけ、と半ばごり押し的に旅行会社に連れて行かれた。自称Premier店員がスタッフに話を通してくれた。

旅行会社「明日ツアーに参加するんだな?」
俺「いや、今のところツアーに申し込むつもりはない」
旅行会社「じゃあ何しに来たんだ」
俺「さっきのインド人に連れてこられたんだ。俺は明日の予定がはっきりしないから、現時点でツアーを申し込むことはできない」

話をさくっと終わらせて外に出る。俺にはあのインド人たちとの約束がある。きっと待っていてくれるんだ。それを簡単に反故にして、ツアーを申し込むなんてできるもんか。

Premier店員(?)とその友人と別れる。メルアドと携帯番号を聞いてくるので教える。6月20日現在、彼から連絡はない。

長い長い回り道を経て、ようやく道路を挟んでホテル・アルカが向こう側にあるというところまでたどり着く。

しかし、道がかなり広く、ひっきりなしに車が通っている上に信号もないので、なかなか向こうに渡れない。10代とおぼしき少年が俺に話しかけてくる。

少年「俺は慣れてるけど、外国人だとこの道路を渡るのは難しいだろ」
俺「信号機がないんだね?」
少年「前はあったんだけどね。今はない」

すると少年の友達が数人来て話しかけてくる。若干タチが悪そうなガキが、やたらと俺のスニーカー(ナイキ。横浜のアウトレットで購入)を気にして「いくらだ」「俺のと交換してくれ」と不愉快なアプローチをかけてくるが苦笑と適当な発言でやり過ごす。金に関する会話ってのはあまり気分がよくない。だって、同じ額のお金の価値がインドと日本でまったく異なるからね。

最初の少年が「今だ! 行け!」と文字通り背中を押してくれたので進むと、うまく道路を渡ることができた。

やった、ようやくホテルに戻ってくることができたよ。やっと一休みだな、と思い、ホテルのドアノブに手をかけると誰かが声をかけてくる。誰かと思ったら、モーティ・マハルへの往路のリクシャ運転手だ。なぜか握手を交わす。

運転手「モーティ・マハルの食事はどうだった? うまかったか?」
俺「うまかったよ」

運転手の横には太った男がいて、やたらと「俺は紅茶の工場を営んでいる。見に来い見に来い」と絡んでくる。

俺「紅茶はもう買った」
太った男「うちの紅茶はそれとは違う。いいから見に来い」
俺「ノー・サンキュー」

リクシャ運転手の方「彼はもう紅茶は買ったんだからいいだろ」とその太った男をいさめてくれている。すると「分かった。紅茶はもういいんだな、それじゃあ・・・」と別の店を紹介しようとしてくるが、俺はそれを遮ってホテルに入る。

それにしても、デリーってのはとことん人の時間とエネルギーを消費する場所だな。玉石混合の多種多様な人間がこれでもかと寄ってくる。

ただどこかに行って、自分がやりたいこと(買い物、観光、食事)をやって、戻ってくるというだけのことがこんなに大変だとは。常に予測しない出来事や人との出会いが待ってる。

今回も、ホテルから出て、モーティ・マハルで食事して、戻ってくるだけで3時間くらいかかってるぞ。

とにかく、インド人というのはあなたのことを放っておいてはくれない。それはインドの面白いところでもあり、大変な部分でもある。特にデリーね。

他人の干渉なしに落ち着ける場所はホテルの部屋くらいだ。

いやあ、充実はしているけど、参ったな。デリーは一日のうち外に出るのは2、3時間でいいんじゃないか、とちょっと思ってみたり。

振り返ると、ここまでで3人のインド人にチャイをおごってもらった。ただ俺が外国人の旅行者というだけで。(続く)