2010年8月1日日曜日

とりあえず行ってみた香港・マカオ、その記録(7)(2004年10月9日執筆)

マカオタワー

今歩いているのは、最初にバスで来たセナド広場に戻るためだ。一旦戻り、そこから再びどこかに向かうのだ。あそこは前述したように国のちょうど真ん中ら辺だから行動するときの「ベースキャンプ」になる。観光案内所みたいなのもあったはずだ。

パンダと微妙な距離を保ったまま歩いていると、徐々に人通りが多くなってきた。広場に近づくにつれ、ちょっと前に通ったところでは考えられないような、近代的な店(デジタル家電を扱う店など)も増えてきた。

広場内の地図を手がかりに観光案内所があるはずのところに行ったが、どうも見つからない。おかしいと思っていたら、潰れていた。入り口の看板にに"for rent"と書かれていて、シャッターが下りていた。やはりここは観光地ではない。


セナド広場に戻る途中


あれがマカオタワー

ただ、案内所がなくても行きたい場所は俺らの頭にあった。マカオタワーだ。タクシーを拾おうと道に出たが、どうもあまりタクシーが通るところではないらしく、なかなか拾えなくて諦めた。

地図上で位置は分かるし、パンダによると大体1.5キロくらいなので、歩くことにした。

1.5キロの徒歩とだけ言うと大したことではないように思えるが、決して楽な道のりではなかった。今まで散々嘆いてきたこの気候の中での移動を通して、俺はだいぶ疲れていた。

疲労のせいか、俺とパンダの会話(この時には5メートルの距離は解消されていた)も、あまり普段話さない内容だった。遺伝子と人生について議論した。たとえば俺:「自分の遺伝子を社会に残したいと思う?」。パンダ:「いや、思わない」。俺:「そうなのか。でも残したいと思うのが人間としての本能じゃないのか? お前の人生の目的は何だと思う?」。パンダ:「人生の目的か・・・」。俺:「人生に生きる価値はあると思う?」のような不快な会話が繰り広げられた。

途中、左側にちょっとした広場を露店が10個くらい取り囲むように設置されているところがあって、2ダースほどのおばさん集団が、ポンポンを持ってゆるい踊りを踊っていた。別に人が集まっているわけでもない。露店の店員すら見ているかどうか怪しい。俺たちも立ち止まりもせずそのまま通り過ぎる。

遺伝子がどれだけその人の人生を決めるかについての議論が感情的になってきたあたりでタワーのふもとに着いた。そのまま話しながらタワーに入り、まずはトイレに入った。不毛になりつつあったので話に見切りをつけ、それ以上話すのはやめた。

初めてマカオで英語が通じる

トイレから出て、チケット売り場へ。人が俺らの前に5、6人並んでいる。何なのか分からないが前の誰かがやたら時間を食っている。受付のスタッフは一人だ。70ドルのチケットを手に入れるまで、5分強は待たされた。

買うとき、"One adult, please."と流れるような発音で言ってみたら相手が"OK. One adult."と確認するように言った。マカオに来て、初めて英語が通じた瞬間である。何だか嬉しかった。

俺らと同時期にチケットを買った奴らと10人くらいにまとめられて、上に行くエレベーターに乗せられた。そして最上階の61階へ。エレベーターは、グラウンド・フロア以外ではこの階と、三つ下の58階に止まるようになっている。

上に張ったタワーの写真を見てもらえれば大体想像はつくと思うが、フロアの形は円形で、周りがガラス張りになっている。この塔の高さは338メートルらしい。壁に誇らしげに図解されていた。

窓際は床もガラス張りで、そこに立つと塔のふもとと道路が見下ろせる。来場者はおしなべて怖がっており、一様にその場所を避けながら歩いている。何の抵抗もなしに長時間両足を乗せているのは俺くらいしかいない。他の人が「よくそれが出来るな」という感じの視線を浴びせてくる。

ただ俺も、彼らの恐怖を完全に不合理なものとして一笑に付すことはできない。なぜならガラスに体重を乗せると、明らかに足元からミシッという効果音が聞こえてくるからだ。

俺とパンダがその危険区域にとどまって下を眺めたり写真を取ったりしていると、警備員にマークされ、しばらく動きを注視された。


みんなこれが出来ない


コメントの難しい風景

そのまま何となく風景を楽しむ。パンダがカップルの男から写真を撮ってくれと頼まれていた。

ベンチに腰掛ける。疲れたし、外は暑いし、特に観光するところもない。マカオに来た最大の目的であるドッグ・レース(9時開始らしい)まで特にすることもないので、しばらくここでまったりと時間を潰すことにした。ちなみに塔に入ったのが7時前くらいだ。

バンジー・ジャンプのようなことができるらしく、窓の外では、オレンジ色の服を着たスタッフが志願した客に生命線などの装備を付けていて、それを中から他の客が見物していた。

58階に降りた。今度は俺が別の中国人風カップルの男に写真を頼まれた。馴れ馴れしくいきなりキャメラを渡してきて、のべつ幕なしにベラベラ何かをしゃべってきた。どうやらこうやって撮ってくれと注文を付けているようだ。それはいいけど長いよ。長いし俺言葉が分からないからさ。気付いてくれよ。

彼は俺が何を注文されたか分からなくて戸惑っているのに勝手に納得して、「じゃ、よろしく」的態度で距離をとって女とポーズをとりやがった。分かんないから「チーズ」的なことも一切言わずに(大体何て言えばいいのかも分からないしな)シャッターを押してカメラを戻した。男はレビュー画面を見ながら女と写真を批評していた。後からパンダに言われて気付いたが、彼はおそらくあの外でバンジーをしているやつらを背景に写してくれと言ってきていたのだろう。ごめん、写ってないかも。


物好き



338M


暗くなるまで塔に残留

そのままベンチに座って、デジカメ(三洋の商標登録らしいねこの言葉)の写真を整理したり、風景を見たりしてのんびりしていると、外はすっかり暗くなった。

7時45分くらいにタワーを出た。まず飯を食って、ドッグ・レースだ。

ビュッフェ

どこで飯にありつくか。それが厄介だ。これまでこの国を歩いてきて、誰でも手軽に入れそうな飲食店を見た覚えがない。ガイドブックにはたしかに興味をひく地元料理の店が紹介されているが、ドッグ・レースまでそんなに時間がたっぷりあるというわけでもないし、一々探すのもおっくうなので、タワーの中のSTAREAST RESTAURANT & DISCOで開催しているビュッフェに入ることにした。ビュッフェだと注文に困ることはあるまい。入り口付近の看板に「$68」と書いてある。

入り口のあたりにたまたま来たウェイトレスに「中に入りたいんだが」的アプローチをかけると、"Do you have admission?(予約してるか?)"と聞かれた。していない、と答えると、"Portguese food, or buffet?(ポルトガル料理? それともビュッフェ?)"と言ってきた。ポルトガル料理というのはおそらく隣接しているレストランのことだろうから"Buffet."と言うと中に案内され、入ってすぐ右側の、料理に一番近い席に座らされた。

ちょっとすると別のウェイトレスが、強制的に買わされるらしい飲み物の注文を取りに来た。8ドルだ。俺はスプライトを頼んだ。

期待に胸を膨らませて料理を取りに行ったが、(少なくとも俺の視点から見て)大したものは置いていなく、空腹にも関わらずテーブルに戻ってきた俺の皿にはあまり料理が乗っていなかった。ビュッフェにはありがちなことだが、料理が品数を稼ぐためにやっつけで置かれている感が否めず、中身が伴っていない。たとえば、カレーにはカニ入りだ。これだけ聞くと豪勢だが、やたらと殻ばかりがたくさん入っていて、食うのに支障がある。デザートも見るからに安っぽい。食い放題なだけあって、全体的にチープで金を払う価値のないものばかりだった。ほとんど、マカオと関係がありそうな料理もなかった。

俺らから10メートルくらいのところにステージがあって、白人女性4人のシンガープラスキーボード担当一人が、ただ雰囲気を作るためだけに、どうでもいい旋律を奏でていた。俺は音楽に聞き入ることもなく、この音楽でレシートにいくら金が加算されるかを心配していた。

一杯目のスプライトを飲み終わると、ウェイトレスがやってきて次は何にするか?という感じで聞いてきた。もういらない、と言うと「ハァー?」と聞き返してきた。日本の感覚だとちょっと小馬鹿にされたような錯覚に陥るが、どうやらここの人にとっては、これが相手の言うことを聞き取れなかったときのスタンダードの聞き返し方らしい。この旅行で何度か経験した。

会計を済ませようとウェイトレスにレシートを持ってきてもらった。68ドルが基本料金のはずだが、さて、果たしていくらなのか。数字を見てパンダは凍った。見せてもらった俺も凍った。

Dinner Buffet A 296
Sprite 8
Cream Soda 8
Total 312
10% S.C. 31.2
Total 343.2

2人合計で343ドルである。どういうマジックが施されたのかは謎だが、多めに払ってウェイトレスに渡した。お釣りを戻しにきたが、チップだと言うとちょっと嬉しそうに引き下がっていった。もしかしたら、値段が68ドルのが俺らの勘違いだったのかもしれない。その数字以外の文字は読めないのでそっちに重要な情報があったのかもしれない。

レース場へ

レストランを出たところの受付で、パンダがドッグ・レース場行きのバスの場所を聞いたら、バスはもう終わったからタクシーを取るように言われた。言われたとおりにタクシーに乗る。パンダが地図を見せてその場所を示すと、運転手は指で「dog」「race」か?みたいなジェスチャーをして確認してきたらしい。

8時40分くらいに目的地へ。料金は140ドルくらいだった。会場は入り口が二つあって、左側には「Hong Kong」、右側には「Members」と書いてあった。俺らはメンバーズではないのは明らかなので左側に行った。入場料10ドルをそこで払うと、丸いチケットを渡された。

レース場に入る。照明の向こうに緑のトラックがあり、10メートルくらいの通路をはさんで観客スタンドがある。観客席の階段と階段の間を通ると、場内馬券ならぬ「犬券」売り場があって、モニターが設置してあった。

どうやら9時からレース開始というパンダの情報は間違っていて、既にいくつかのレースが消化されていた。ちょうど新しいレースが始まるようで、おじさんが数人そわそわしながらテレビの前でレースの行方を見守っている。中には心底興奮して、童心に返ったように飛び跳ねながら無邪気にレースの経過に一喜一憂しているおじさんもいた。こうはなりたくないな、と思った。


レース場



馬券売り場とモニター


「犬券」

二度の賭け

仕組みとしては、日本で言うとサッカーくじに似ている。あれと似たような用紙に鉛筆で塗りつぶして予想し、受付に持っていく。用紙を見ると購入や賭けの方式がいくつかあるようで、言葉が分からない観光客にとっては分かりにくい。だがパンダは大体こんなもんだろ、という感じで一つ買った。1位だけを予想する方式らしい。

俺はギャンブルはやらない保守的で真面目な性格なので、賭けには参加せず、傍からの観察に徹することにした。

さっきモニターに写っていたのは第6レースで、パンダ野郎が賭けたのは第7レースだった。スタンドから見た。よく分からないが彼は40ドル賭けて負けたらしい。

レースとレースの合間に、トラックの横に設置された柵付きの円形状の砂場があって、そこで犬一頭ごとにジョッキー(?)が一人ついて、次のレースに出場する犬を客に見せている。ジョッキーの人々の歩き方がやたらもっさりもったりしていて、表情も生気を抜かれたような独特のオーラを発していて、何だか不気味だ。

レースがどういう仕組みかというと、まず、当然だが競馬と違って人間が上に乗って操縦するわけではない。そのかわりにどうやって犬が走るように煽っているかというと、犬が走るのと並行して、匂いのついたうさぎの人形が犬の鼻先に来るようになっている。犬がその人形を追いかけると、結果的にトラックを走ることになる。

犬どもは異常に速い。走りを目撃したら圧倒されることはうけあいである。彼らは、本当にこの目的のためだけに育てられてきたようで、ほとんど脂肪がついていない。また闘争心が旺盛で、ジョッキーが手綱を取って抑えていなければ、近くにいる犬同士でケンカを始めそうだ。


携帯禁止





レース前の怪しいデモンストレーション(四枚中二~四枚目は2010年8月1日追加画像)

あまりここにいすると香港に戻れなくなるので、あと1レースだけ見て帰ることにした。このレースになると、最初と比べだいぶ人が減っていた。半分くらいかな? ゴール間際の犬を楽にトラック付近の柵の最前列で見られるようになっていた。今度はパンダは100ドルを倍率2.55倍の犬に賭けた。

そして何と勝ちやがった。ホクホク顔で換金所に向かうパンダ。戻ってくると、別にほめてもいないのに、なぜか「いやいや、ビギナーズラックだよ」と謙遜しだした。よほど嬉しいのだろう、満面の笑みで急に饒舌になった。しかし、俺が「本当に助かるわ。何をおごってくれるの?」と真顔で問い詰め続けると言葉数が少なくなってきた。

ところで、最後に見たレースの動画を撮ったので、まだの奴がいたらチェックしてくれ。


そして参考までに、壁に書いてあったこのドッグ・レースの公式サイトアドレスを貼っておく。
http://www.macauyydog.com/

9時45分くらいにレース場を出た。出口にいた、恰幅のいい人のよさそうな警備員のおじさんに、港に行くにはどのバスを取ればいいのかを聞いた。ここでも英語が通じた。俺のリアルな英語はあまり通じず、逆にパンダのカタカナ読み英語の方が相手に理解しやすいようだった。A1バスに乗りなさい、Aと間違えるな、と親切に教えてくれた。

ようやくここまで来たか。もうすぐで旅行に行ってから4ヶ月か。早く終わらせたいよ・・・。