2010年8月1日日曜日

とりあえず行ってみた香港・マカオ、その記録(5)(2004年8月16日執筆。22歳の誕生日)

料理を待っていると、地元の女性客(40くらい?)が一人で来店して、俺らの座っているテーブルに案内された。何なら店員と、知り合い同士のような手馴れた感じでいくつか会話をかわし、注文した。

すると今度は50くらいのおじさんがこれまた一人で来て、またも俺らのテーブルに座った。どうやらこちらでは相席が当たり前のようだ。俺は隣の椅子に置いていたかばんを床に降ろす。おじさんの方は別のもっといい席が空いたので、そっちに移動した。

いよいよラーメンが来た。「いよいよ」と言うくらい期待していたわけだが、目の前に運ばれてきたそれを見て拍子抜けした。「ん?」という感じ。何がって、その大きさだ。ボウルの直径がせいぜい12-3センチくらいしかない。


期待したわりには・・・

具はもちろん海老ワンタンが3つか4つ入っているが、麺の中に埋没していて、見ただけでは麺とスープしか入っていないように見える。つまり見かけも貧相だ。日本でラーメンというと、ラーメン博物館の「ミニサイズ」でもないかぎり容器のサイズは直径でこの倍くらいはあるし、種類にもよるけど何種類かは具が入っていて、見かけの時点でうまく見せるように工夫している。それに対して、今俺らが食そうとしているラーメンは、「食ってくれ」というオーラをまったく発していない。少なくとも、俺にはそう見える。

味も何というか、驚きも発見もない。麺は硬く、噛み切るのが難しい。口の中で麺を揃えて、ハサミで切るようにしっかり切り目を入れないと、食うときの区切りを付けることができない。スープにはあまりコクとか深みはない。海老ワンタンはさすがにうまいと思った。でも日本でいう「ラーメン」を少しでもイメージして行くと肩透かしを食らう。



とうふぁ

隣のテーブルを見ると、多くの人がラーメンの他に、もう一つメイン・ディッシュ級の料理を頼んでいるようだ。日本だとラーメンは単体で一回の食事が成り立つが、どうやらこちらの「ラーメン」は食事を構成するいくつかの料理のうちの一つ、というニュアンスらしい。うーん、注文失敗したかな。

その心配を的中させたのが、デザートの到来だ。豆腐花(とうふぁ)のサイズが、ラーメンのそれとほぼ同じなのである。普通に考えてデザートというのはそれまでに食ったものへの付け足しみたいなもんで、メイン・ディッシュと量が同じなんてのはおかしい。

とうふぁはあまりデザートという感じがしなかった。豆腐でさ、ちょっと普通の冷奴よりやわらかくてダシをかけるタイプのがあるでしょ。その豆腐に、ダシのかわりにちょっと甘い汁をかけたものと考えてもらっていい。そんなに甘くないし、それに温かいんだ。

夜景

今、時間がだいたい夜の8時。勝手が分からない初めての土地で、しかも蒸し暑い中で結構動いたから、気持ちとしてはもうお腹いっぱい。ホテルに帰りたい気分だ。

しかしそうは問屋が卸さない。というかパンダ野郎が承知しない。彼が香港に来たからには夜景を見るべきだと主張するのだ。

俺も渋々承知し、そこから疲れ+男二人でわざわざ、ねぇ・・・という憂鬱さ、という二重苦を噛み締めながら有名な夜景スポットへ向かうことにした。


トイレを見つけても安心してはいけない。入れるとは限らないから

TIMES SQUARE近くの駅から二駅の「金鐘」という駅まで行き、その駅前から15番のバスに乗ると夜景スポットに行けるらしい。

駅前に15番が止まるらしい停留所を発見し、待つ。バスは1分ごとにに1、2台くらいの頻度で来るのだが、どれもこれも俺らが乗るべきバスではない。肝心の15番がなかなか来なくて不安を煽る。15分くらい待ったらようやく来た。

例によってオクトパス・カードをセンサーに触れさせ、入る。運がよいことに比較的空いていて、一番後ろの席に余裕を持って座ることができた。

目的地は終点らしい、どうやら。だから安心して乗っていられる。パンダと俺との間にほとんど会話もなく、ともに虚ろな視線でぐったりと車の揺れに身を任せる。俺はちょっと酔った。

20分くらいで着いた。みんな目的地に向かっているのかと思いきや、ここまでに思いのほか人が降りていて、今残っているのはバスの座席数の、まあ3割くらいかな。

バスから降りた奴らは、みな同じ方向に歩いている。つまり目的は同じなのだろう。その流れに入って歩く。


夜景よりも明るいマクドナルド

建物に入り、エレベーターに乗って上方面へ。てっきり金を取られるのかと思っていたが、無料だった。

2、3分たつと、外に出た。ここから香港が世界に誇る夜景が見られるのか。一体どれほどのものなのだろう。よほどすごいんだろう。何せ100万ドルの価値があるんだからな。期待感に胸が躍る。

フェンスまで行き、眼前に広がる夜の街を一瞥する。たしかに暗闇をまばゆい光が照らしている。しかしそれは上って来る間に設置されていたマクドナルドの光だった。街の電光はぱっとしない明るさでだるそうに光っていて、美しさのかけらもない。これは別に何万ドルの・・・とかの異名を付けられる代物ではない。もはや普通の景色だ!

アメリカ資本の、高カロリー不健康ジャンク・フードを出す店の電光が、100万ドルの夜景を完全に食っている。シュールすぎる。思わず笑ってしまった。実に俺好みの皮肉なオチだ。中途半端にきれいな景色が見えるよりはずっといい。

ここに来ることを強く主張したパンダの表情には明らかに焦りの色が見え始めた。愛想笑いのようなものを浮かべているが、表情は引きつっている。今にも「こんなはずじゃなかったんだ、こんなはずじゃなかったんだ・・・」と頭を抱えながらとわめきそうである。

だがこれはまだ「オチ」ではなかった。ここはまだ途中の地点で、もっと上に展望台があるらしい。パンダは命拾いをした。もし「これ」がわざわざ見に来た夜景だったら、今頃この旅行記で相当きつくディスられていたはずだ。


拉=引く

終着点まで行くと、そこから見える景色は明らかに違っていた。これはもう、言葉で説明するよりは写真を比較してもらえれば一目瞭然だ。ここでは"A picture paints a thousand words(一枚の絵は千の言葉を描く)"という格言にしたがうことにしよう、この言葉を受け入れることはある種、物書きにとっては敗北宣言のような気がするのだが。

見る場所は何箇所か用意されていて、いくつかの角度から街を展望できる。時折、日本人の集団がいる。

もちろん日本人だけではなかった。シナ語も英語も飛び交っていた。

そんな中、シナ人のガイドのおじさんで、頭がはげているが腹は出ていなくて精力が強そうで声のでかい人が、"This is the best place. This is the best place to take a photo.(ここが一番いい場所だぜ。写真を撮るために最高の場所なんだよ)"と何度も何度も連呼しながら白人の家族を先導していた。

しめた! この営業スマイルが板についた、しかし一枚めくると腹黒そうなおっさんに付いていけば、いい写真が撮れそうだ。

最初は聞こえていない振りをして、家族が俺を通り過ぎるのを待って、しかししっかりと視界にとらえ、何気なく付いていった。遠めに彼らが写真を撮るのをやり過ごしてから、ちゃっかりと自分もそこに行って撮影した。たしかに一番いい場所だった。ありがとう、おじさん。


"The best place"から撮った写真(高画質大サイズ)

「一番いい」写真が撮れたし、夜景もそれなりに眼光に焼き付けたので、戻ることにした。ちなみに、この場所は案外カップルのための場所、というわけではなかった。一組、それ風な怪しい男同士のカップルがいたが・・・。そう、他でもない俺らのことである、ってネタで書いただけで吐き気がするぜ。

帰り道に俺らが至った結論はこれだ:香港の夜景は、100万ドルの夜景というよりは、電力の無駄遣いである。たしかにきれいだったのだが、そんなに目を丸くして感動して随喜(ずいき)の涙を流して生きててよかったとつぶやいて今なら死んでも惜しくはないと思うほどではなかった。香港到着間際の飛行機から見た夜景の方がすごかった。まあ、こんなもんか。

スシ

ようやく宿舎に戻る。ただ戻るだけではつまらないので、駅近くに見つけた寿司屋とコンビニに寄った。

寿司屋と行っても、高級なもんではなくて、一つ一つビニールに包まれた寿司が保冷機に色々置いてあって、パックに詰めて10個でいくら、という店だ。

夜の12時近いのに、結構繁盛している。2パック買った。買うときに店のおばさんから色々と聞かれたが何を言っているのか分からず、彼女も英語を解さないようで、二人であいまいな日本のわたし的な反応を示しているとパックを新しいのに入れ替えて渡してくれた。結局何だったのか、よく分からない。

さて、どうだったんだ、寿司は。ホテルに戻って期待いっぱいの俺らが到達した結論:寿司ではない。色々と、得たいの知れないネタもあってそういう意味では楽しめたが、味は、ねえ。あまりたくさんは食べたくない感じだった。

醤油もいただけなかった。日本の醤油と明らかに違って、何かコクというかクセがある。


うーん、今いち・・・

2時くらいだったか、3時くらいだったか、それくらいには寝る態勢に入った。携帯のアラームは9時25分に設定した。今日はギッシリと中身の詰まった日だった。それはそれでいいのだが、明日はもうちょっとゆったり、まったり過ごしたい。(二日目、終了)


右下に見えている白と赤のマークは「駅」を意味する

今日はマカオに行く

アラームががなる。元々しっかり起きようというやる気は俺らになく、アラームは軽く黙殺した。そして気付くと1時間過ぎていた。さすがに起きないといけないと思い、パンダを煽る。

支度をし、11時半頃に宿舎を出た。そして電車に乗り、終点の「中環」駅まで行った。まだ何も食っていない。またしても2食か。旅行としてこれはよくないことだ、なぜなら食事こそ旅行の醍醐味の一つだからだ、とパンダ野郎が力説する。

今日の予定としては、しばらく香港をぶらついてから、マカオに赴く。

明日早いからここら辺で止めておこう。もう少し進みたいのもやまやまだが。今日は調子がよかった。よどみなく文章が出てきた。